第2章 # 00008B
コイツが何か言いたげなのがわかって
エアーブラシのオーバーホールに集中してるフリをした
自分は苦手だから、と
何かにつけて俺を頼ってくれるところはコイツの優しさなんだって知ってる
内部の汚れはカップとパイプの接合部分だけだった
「よし、…っと」
「え? もう終了?」
「そう。あとは組み立て直すだけ。
やってみる?」
「いや、パス。
あ、珈琲飲むだろ?」
あの頃は大の苦手だった珈琲も
15年も経てば毎日欠かさず飲むようになるんだから不思議だ
カズが知ったら…“兄さん、大人になったじゃん”とか言ってからかわれたりするんだろうか
それとも
好みが変わる程の長い歳月を別々に過ごした事を改めて実感して
眉を下げて切なく笑うんだろうか
「ほい。お疲れ」
「あぁ。ありがとう」
作業台の上に置かれた珈琲のグラスの氷がカラン、と音を立てた
「完成? さすが、智!」
「誉めても何も出ないからな
ソレ飲んだら作業仕上げちゃいなよ?」
「チェッ」
ゴクゴクと珈琲を飲み干して
「よっしゃ! 気合入れるか!」
前髪を纏めて一捻りし、ピンで留めた
「慎吾」
「んー?」
「頼りにしてるよ」
「おーよ! 任せとけ!」
作業マスクを付けながら
慎吾がクイッ、と親指を立てた