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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第5章 一栄一辱


潤side


馬場で伸びやかに躯体を躍らせるのは、本当に久しぶりだった。


何が忙しいという訳でもなかったが、松本という家に媚び諂う(こびへつらう)連中の相手に、少し疲れていたのは事実だった。


何もかも自分の思い通りにしようとする厳格で横暴な父上にも‥

母様が病で臥しているのをいいことに、彼女を蔑ろにしていることも気に入らなかった。


何もかもが噛み合わない歯車のような歪な家の中。

それを薄々感じはじめた翔。



心根の優しい歳の離れた弟は、自分を乗せた白馬の躯体を撫でては話し掛けている。

力で従わせるのではなく情を通じあわせようとする翔は、滅多に鞭を使わない。


現に今も‥


「翔、いくら撫でてやったところで、相手は馬なんだぞ?手綱と鞭を使わなければ、言うことは聞かない。」

ようやく追いついてきた白馬の騎手にそう教える。


「だけど‥なんだか可哀想じゃないですか‥。痛そうだし。」


‥優しすぎる。


自分とは違う性根を持つ弟を可愛いらしく思うが、その甘さに苛立ちを覚えてしまうこともある。

少し眉を下げて困ったように笑うその頬を、憎らしいと思うことも‥


庇護欲と相反する感情。


自分の中に渦巻くものの正体が、恐ろしいとさえ感じてしまうのだった。


「構うものか。必要な時には鞭を打つ‥当たり前のことだ。 そろそろ大人になれ。」



そうだ‥言うことを聞かないのであれば‥

どんな目にあうのか‥その躯体に教えてやればいい。

そうすれば嫌でも従うさ‥。


遊女のような淫靡な仕草で、俺の心を弄ぼうとしたあの男の身体にも‥それを教えてやろう。

何を企んでいるのかは知らないが、俺を自分の手掌に収めようなどと愚かなことを目論んだ罰だ。


思い知るがいい‥。


薄暗い屋根裏部屋で鎖に繋がれているくせに、従順にならないと感じる大野智。

淫らに振る舞い快楽に溺れている身体を愉しんでいるはずなのに、何故かそれにすら満足できない自分がいた。


どうしたらあの男を本当に膝まづかせることができるだろう。

退屈しない玩具を、どう弄んでやろうか‥



「兄さん、何だか楽しげな顔してるけど、面白いことでも考えているの?」

どうやら笑みを浮かべていたらしい俺を、馬身を並べた弟が不思議そうに見ていた。


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