愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第5章 一栄一辱
屋敷に戻った俺たちは、それぞれの部屋で軽く汗を拭き取る。
さて‥あの男はどうしてるだろう。
着替えを済ませた俺は、部屋の奥にある屋根裏部屋へと続く階段を塞いでいる扉を一瞥した。
ほんの少し退屈しのぎに、淫らな欲に身体を疼かせてやろうか‥
それとも‥‥
俺は入り口の扉に鍵を掛けると、蓄音機に美しい調べを奏でさせた。
それはまるで天の神にまで届き、その心を蕩かせてしまいそうなほど澄んだ、幼き少年達の織りなす歌声。
その荘厳なまでの調べは‥あの美しい身体を乱れさせる。
ぞくぞくと腹の底から湧き上がる得体のしれない感情を片手に屋根裏部屋の鍵を開けて、一歩‥また一歩と階段を上がった。
明り取りの小窓からは傾きはじめた陽の光が差し込み、闇の時間が迫ってきているのを教えてくれる。
なぁに‥ほんの少しだけ、目覚めさせてやるだけさ。
夜は‥長い。
最上段の先の古い扉に手を掛けると、ゆっくりとそれを押し開いた。
さして広くない板張の部屋の中で、繋がれた白い足を投げ出すようにして座っていた大野智は、物音に気付くと物憂げな表情(かお)で、こちらを振り返った。
「帰ってらしたんですね‥」
「ああ‥今しがたね。‥気づいていただろう?」
冷たい板敷の上に片手をついて俺を仰ぎ見る顎先に指をかけて上を向かせようとすると、すっとそれを躱される。
「ほう‥ずいぶんと元気が有り余っているようだな。それとも‥何かの余興のつもりか?」
俺が背けた首筋に指を這わし、耳朶を擽りながら息を吹き掛けると、目の前の男はふるりと身体を震わせた。
「そっ‥そんなことは、決して‥‥」
「無いと‥?」
身体を崩しかけ胸もとを搔き合せようとする小さな手を払うと、襟元を開き上身頃の肩を晒す。
明り取りの窓から差し込む頼りない陽光の中に浮かび上がる、薄絹のように滑らかな肌。
「あっ、やめて‥っ‥」
恥じらうようなか細い声を上げた身体を床に押し付けると、傍らに膝を付き開いた襟元の隙間に沿って、指先だけでなぞって‥
「そんなことは無かろう‥ではお前の身体に聞いてやろうか‥。存外素直だからな。」
指先の辿り着いた柔らかい粒を、ゆるゆると転がしてやると、大野智は微かに喘ぎながら身を捩った。