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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第5章 一栄一辱


どれくらいの間そうしていただろうか・・


遠くの方で、馬の蹄のような音が聞こえて、僕は閉じていた瞼を開いた。


これだけの広大な敷地だ、庭のどこかに馬場でもあるのだろうか・・


少しだけ背伸びをして、窓に手をかける・・けど、足は繋がれたままだからそれも限界があって・・


僕は部屋をぐるりと見回すと、何か踏み台になるような物を探した。


あ、あれを使ったら・・


僕の目に止まったのは、今にも朽ちてしまいそうな、古びたら文机で・・


それを引き摺るようにして何とか窓の下辺りに置くと、そこに恐る恐る足を乗せた。


そして漸く届いた窓を少しだけ開け、僕は耳を澄ました。


馬の蹄が砂を駆ける音、そして馬の嘶き(いななき)に、時折振り下ろされる鞭の風を切る音・・


懐かしいな・・


父様も、お仕事がお休みの日は、良くああして屋敷の馬場で馬を走らせていたっけ・・

僕はいつもその姿を、母様の腕に抱かれて見てたんだ。


いつか僕も・・なんて目をびーどろのように輝かせながら・・


それから父様は言うんだ・・

「いつか智にも手解きしてやらねばな」

って・・

大きな大きな手で、僕の頭を撫でながら・・・・

僕が“その日”をどれ程待ち遠しく思っていたか・・


知らず知らず溢れ出した涙が頬を伝い、僕の足元に落ちた。


せめて父様と母様が生きていたら・・

僕はこんな深い闇に身を堕とすことはなかったのに・・


憎い・・

あの男が・・
僕から全てを奪った松本一族が憎い!


僕はぴしゃりと窓を閉めると、文机を元の位置に戻した。


そして、板敷の上に敷かれた布団の上に膝を抱えて座った。

何かある筈だ。

僕がここにいることを、和也に知らせる方法が・・


和也が僕の置かれている状況を知れば、和也のことだ、きっと案を講じてくれる筈だ。


どうすればいい?

ここから抜け出すには、どうしたらいい?
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