愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
雅紀side
懐に潜り込んでくる仔犬のような温もりを抱いて眠ったはずなのに、そこがすうっと冷えたような感覚で目を覚ました。
見れば私の腕の中にいたはずの二宮君は、起き上がって布団から出ていこうとしている。
まだ夜が明けるまでずいぶんと時間があるというのに‥そんなに急(せ)くことも無かろう。
私は名残惜しさに、ふわりと離れかけた白い手を掴むと、彼を胸の中に抱き戻した。
すると不意だったのか、彼はすとんと懐に塩梅良く収まる。
まるでそこが自分の居場所だったかのように。
それにひどく満足した私が、少し冷えた小柄な身体を包み直して‥柔らかな髪に頬を寄せようとすると、彼はもう帰らなければならない刻限だと言う。
そんなもの‥気にしないで、ここに‥
そんな言葉が喉元まで出かかりはしたものの、それを言ってしまえば二宮君を困らせてしまうばかりだと、仕方なく馬車で送ることを約束した。
だが彼がこうして傍にいるというだけで、こんなにも心が安らぐのならば、いっそ‥‥
「君さえ良ければ、ずっとここにいてくれて構わないのに・・。どうだい、考えてみてはくれないか?‥勿論使用人としてだが‥」
私は‥彼の可愛らしく笑う顔や仔犬のような純朴な表情を、傍で見ていたいものだと思ってしまった。
そして、できるならば‥傍に置き、未知のものに好奇心に目を輝かせていた彼と同じ時間(とき)を過ごしたいとさえ‥。
だが、そんな性急過ぎる願いなど聞き入れてくれる筈は無かろうと、わざと使用人としてどうだろうかと尋ねた。
なのにそれですらも躊躇いの表情を浮かべてしまうから、背中を温めていた手で心を解すように髪を梳く。
すると私を見上げたうす闇に透けたような薄茶色の瞳を間近に感じて、とくりと心臓が鳴る。
彼の人柄を表すような曇りのないその瞳に、見入ってしまい言葉を失いそうだった。
どうしてしまったというのだ‥
まだ智を失ってしまったばかりだというのに。
私は‥‥
「冗談だよ。駄目だな、私は・・。君を困らせることしか出来ないとは・・。情けない男だと笑ってくれて構わないよ」
本当に‥‥情け無い男だ‥
君を困らせることばかり考えてしまう。