愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
その本はとても珍しいもので、名も知らない異国の地を写真に収めたものが随所に散りばめられている。
私は隣り合わせて座る二宮君の膝の上にそれを広げると、一枚ずつ捲りながら、そこに書いてあることを話して聞かせた。
しばらくはしきりに感心しながら相槌を打っていた彼だったが、次第に口数が減っていき、そのまますうっと目を閉じてしまい、隣り合っていた肩に重みがのる。
きっと日頃の奉公で疲れていたのだろう。
起こしてしまうのも忍びなく、凭れかかる彼の重みを引き受けて、落ちてしまいそうな柔らかな手を自分のでそっと包んだ。
こんな安らかな時間は、いつぶりだろうか‥
ずっと‥張り詰めていたような気がする‥。
智の心を追い求めて、嫉妬に狂い‥身を裂かれるような思いを味わった。
熱情に身を焦がし続ける日々。
心安らぐことなど‥いっときも無かったように思う。
ランプの温かな灯りが照らす横顔は、より一層可愛らしい存在を幼くみせてい‥
‥可愛らしいものだな。
私は心癒される存在を微笑ましく思い、その身体を抱くと、柔らかい布団の上に静かに横たえる。
そして手早く寝間着に着替え、目を覚ます気配もない彼の羽織を脱がせると、強く結ばれている袴の紐を解いた。
このままでは流石に寝苦しかろうと、そっと袴を脱がせて布団を掛けてやり、自分もその隣に横になった。
無防備な寝顔をみせる二宮君の髪を手櫛でといてやると、ふわりと柔らかな微笑み(えみ)を浮かべる。
その綿菓子のような微笑み(えみ)に心解かれ、髪を撫でていると‥
「‥旦那様‥ここは‥‥?」
薄く目を開いた彼が、ぼんやりと私を見つめて舌足らずな声を出した。
「安心しなさい‥私の腕の中だ。」
半分、夢の中にいる瞳にそう教えてやると、嬉しそうな表情(かお)をした彼は、私の胸に顔をうずめる。
私は温もりを求めるようなその仕草を愛らしく思い、飽きることなく無垢な寝顔を眺めていた。
そして、その安らかな時間は、私をも幸せな眠りへと導こうとしていた。