愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
まるで幼い子の手を引くように丸みを帯びた手を取り、二階にある私の部屋まで来ると扉を開いて彼を招き入れた。
背中を押された二宮君は部屋に入るなり一瞬目を見張ると、うわぁっと小さく感嘆の声を上げる。
私はそんな姿でさえ微笑ましいと思う。
松本の屋敷に帰れば、きっと楽しいことばかりではないだろう。
だからせめて、このひと時だけでも彼の心を明るくしてあげることができるのなら‥そう思った。
部屋の入り口で立ち止まる彼の背中を軽く押し中に入ると、後ろ手に扉を閉めた。
すると彼は
「は‥初めて見るものばかりです‥‥。いつも下働きばかりで‥旦那様方のお部屋に入ることなんてなかったから‥。」
そう言いながら、部屋の中をぐるりと見渡す。
そして机の上に置いてあったものに目を止めると、興味深げに近づいていった。
それを横から眺めたり、下から覗き込んだり‥
散々それを見ていたけれど、それが何か分からないようで、しきりに首を傾げている。
そしてとうとう、
「この丸い玉は、一体何なのです?」
とそれ越しに私を見上げて、答えを求めた。
その好奇心に輝く眼差しを汲んだ私は彼の横に並び、それを指で軽く回す。
「初めて見るのかい?これは地球儀と言ってね。どう教えてあげると分かりやすいだろうか‥」
私はくるくると回っている地球儀を止めて、一点を指差した。
「ここにね、君はいるんだよ。そして私も。わかるかい?」
だけど私の指差したところをじっと見ていた二宮君は、こちらを見上げて小首を傾げている。
「この玉のここに?‥じゃあ他はどうなってるんです?」
灯りに透けるような薄茶の瞳をこちらに向けて、どうしても分からないといった表情を浮かべていた。
‥無理もないか。
恐らく、幼い頃から他所の家に奉公していたのなら、寺子屋などに通うことも叶わなかったのだろう。
無垢な少年のような彼をとても可愛らしいと感じ、弟のようにさえ思えて仕方なかった。
「興味があるのかい?」
私がそう尋ねると、無垢な彼は素直に頷く。
「では、きちんと教えてあげねばなるまいな。」
私は友人達が渡航の土産にとくれた本を棚から取ると、肘掛け椅子に腰掛けて、彼を隣に座らせた。