愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
雅紀side
いくら私が身分の差など気にしないといっても、首を横に振るばかりで‥
彼はよほど純朴な青年と見えて、申し訳なさそうに顔を伏せてしまった。
‥仕方ない。
あまり困らせても可哀想かもしれないな‥
私はせめて親愛の情が通じるようにと、彼の小さな手を取り、そっと引き寄せて胸の内に収めた。
腕の中にすっぽりと収まった身体は、すっとそこに馴染むかのように私に寄り添う。
小さくも温かな存在。
もう少しだけ‥私の胸を温めてはくれまいか‥?
そして君が誰かの胸で安らぎたいというのなら、私がその役目を果たしてやることはできないのだろうか?
彼の柔らかな髪に頬を当て、そんな思いを巡らせていると、無情にも刻限(とき)を告げる柱時計の音が鳴る。
「‥もう帰らないと‥」
ゆっくりと顔を上げた二宮君の、今にも帰ってしまいそうなその口振りに‥思わずその身体を抱き上げた。
突然の大胆な振舞いに目を丸くした彼は、咄嗟に私の首に手を伸ばす。
晩秋の風の中、ひとり帰すことなどできない。
かと言って馬車などで乗り付ければ、主人は元より他の使用人たちに何を言われるか‥。
純朴な可愛らしさに微笑ましさを感じると同時に、なかなか打ち解けてくれない彼にもどかしさも感じてしまった。
「今日はもう遅い。泊まって行きなさい。」
そうでも言わなければ、君は帰る時間ばかり気にするだろう?
私が戸惑いを隠せない表情(かお)をしている二宮君を抱いたまま、自室へと戻ろうとすると、
「あ、あの‥、分かりましたから降ろしてください。」
慌てたように制止されてしまう。
そして今度は周りを気にして、降ろしてくれと小さく抗議する。
ここは私の屋敷なのだから、誰が見ていようが何も気にすることなど無いというのに‥。
だが、あまり困らせてばかりでは、嫌われてしまうかもしれない‥。
「‥君がそう言うなら仕方がない。」
仕方なく軽い身体を床に降ろしてやると、彼は少し安心したように私を見上げて
「ありがとうございます‥。」
と小さく笑ってくれた。