愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
和也said
俺に傍にいて欲しい・・
智さんではなく、この俺に・・
傍にいて欲しいと・・
その言葉に偽りなんて、微塵も感じられなかった。
優しく俺を見つめる眼差しが、真剣そのものだったから・・・・
俺はその真剣な眼差しに応えるべく、小さく頷き、手を引かれるまま主屋へと入った。
食堂では俺が萎縮してしまうも思ったのか、その人は俺を奥の座敷へと俺を誘った。
お祖母さんが使っていたという部屋に、行燈を灯すと、燃えるように色付いた紅葉に彩られた庭から、すっと風か吹き込み、行燈の灯りをゆらゆらと揺らした。
用意された夕食は、そのどれもが見るからに上品で、少しでも油断したら頬が落ちてしまうくらい、美味かった。
初めて見る料理、初めて口にする味・・
気付けば俺の箸は絶え間なく動き、その度に自然と微笑み(えみ)が零れた。
そして向かい合って座った相葉雅紀の顔にも、同じように微笑み(えみ)が浮かんでいて、
「食事が美味しいと思ったのは久しぶりな気がするよ」
箸を口に運び、自嘲気味に笑った。
智さんが去ってからの、一人で取る食事は、どんなに味気なかったことか・・
それを思うと、少しばかり胸が痛む。
でも・・
ならば今だけでも・・
この瞬間(とき)だけでも・・
「こんなに美味しいのに・・勿体ない・・」
そう言っておどけて見せた。
笑っていて欲しい・・
この人には・・
この人だけには・・・・
そう思ったから、智さんもこの人を捨てたんだ。
この人だけには、幸せになって欲しいから・・
その幸せを、俺が・・
なんて・・・・何を今更・・
俺なんかがこの人を幸せになんて、どうやったって出来っこないのに・・
でも少しだけ・・
ほんの少しだけ期待しても、いいよな・・?
「夕餉を済ませたら、私の部屋ものぞいてみるかい?君が面白いとおもうものがあるかもしれない」
俺の思いを知ってか知らずか、膳の上に箸を並べて置くと、少しだけ声を弾ませた。
俺を部屋に‥?
「さすがにそこまでは‥‥」
ただでさえ勿体ないくらいの恩恵をこの人から受けているっていうのに‥
口籠ってしまった俺に、目の前の優しい人は、尚も言葉を続けた。