愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
自分の気持ちを探しあぐねている私を不安げに見つめる瞳に、何と言えばいいのだろう。
友人でもなく‥情人でもない。
自分の胸を温めてくれた彼を、何と呼べばいいのか。
羽織をかけてやった手を外せないまま落ちた沈黙。
「‥‥すまない。」
私はその答えを見つけることができなかった。
沈黙を解いた私の言葉に、二宮くんは少し寂しそうに微笑んだ。
「そんな風に言ってくださるのは旦那様だけです‥それだけで、十分幸せです。」
幸せだと言っているのに‥何故そんなにも寂しそうな目をするんだろうか‥?
何が君の心をそんなにも患わせているのだろうか‥?
行き場をなくした仔犬のような表情(かお)を見てしまうと‥抱きしめてしまいたくなるではないか。
「そんな顔をしないでおくれ‥君を困らせるつもりは無かったのだ。‥私は君から貰った温もりがどんなにか有り難かったことか。だから‥傍にいて欲しいと‥そう伝えたかっただけなのだよ‥。そこに身分など関係は無いと‥。」
私は寂しそうな頬を両手で包むと、自分の言葉が揺れている瞳に‥彼の心に届くようにと、そう願わずにはいられなかった。
「‥私が旦那様の傍に‥‥?」
「ああ‥そうだ。だからこうして時を過ごしたいと思うのだ。‥迷惑だっただろうか‥?」
揺れている瞳にそっと問いかけると、彼は小さくかぶりを振った。
「‥よかった‥。これからもこうして傍にいてくれるかい?」
私は‥二宮くんに傷心を癒されているのだと思っていた。
そして彼も温もりを欲するほどの哀しみを抱えているのだと‥思っていた。
私は小さな頷きをくれた彼を連れて、屋敷へと戻った。
「食堂では私も肩が凝ってしまうから、ここで構わないかい?」
初めて足を踏み入れる屋敷に身を縮こませてしまった二宮くんを連れて、奥の日本家屋にある座敷へと入った。
「へぇ〜すごいですね‥。」
「ここは昔気質な祖母が使っていたんだよ。私はばあさまっ子でね‥よくここで遊んでいた。もう‥ずいぶんと昔の話だがね。」
私は膳の用意されたその上座に腰を下ろした。
日も暮れかけて行燈の灯りが揺れる。
祖母のために設えられた庭の灯籠にも火が灯り、赤く燃える紅葉の葉を幻想のように際立たせていた。