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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第4章 落花流水


雅紀side


少しずつ温まっていく指先‥


そしてゆらゆらと揺れる湯気の向こう側に座る二宮くんの存在が、私の心にじんわりと温かさを与えてくれている。


胸の内に沁みていくような優しい存在。


それは智に抱いていた身を焦がすような熱とはまるで異質なものだった。



何故だろう‥

傍にいてくれるだけで、こんなにも‥



私は‥ごく自然に温もりを胸に抱いていた。


まるで自分のなかに、それを沁み込ませたいと願うかのように、小さな身体を抱き寄せていた。

そして温かいと感じた。


愛だとか、恋だとか、そういった類いの激しい感情とはかけ離れた‥今まで感じたことの無い不思議な感覚を覚える。

自分のなかに初めて湧いた感情だったが、それはとても心地よいもので、もっと味わっていたいと思ってしまうものだった。


不思議な子だ‥


不意に抱き寄せてしまったのに、怖がることも無く彼は何も言わず、ただ静かに私の胸に寄り添ってくれる。


もうしばらくだけ‥‥

そう思っていた矢先だった。


「旦那様の胸はなんて温かいんだろう‥」


はらりと零れた呟きが、私の心にまた沁みた。


私の腕はまだ誰かを温めることができるのだろうか‥と。

そして静かに寄り添ってくれているこの青年の心の中にも、温もりを欲するほど抱えきれない辛いものがあるのではないかと‥そう感じてしまった。


優しい存在が自分のなかに、新しい何かを芽生えさせてくれている。


そんな予感すら感じさせてくれた彼の助けができないだろうか‥。


私はまた‥ごく自然にそう思ってしまった。


だから私は二宮くんを夕食に誘っただけだったというのに‥食事の支度を頼みに出た隙に帰ろうとした姿を見てしまって、切ない想いに囚われてしまった。


更に彼が脱ぎかけた羽織を肩に戻してやると

「どうして‥、どうして私の様な者に、そんなに良くしてくださるんですか?」

と不安げな表情(かお)で私を見上げる。


「私はね‥君に救われたんだ。私にとっては大切な人なんだよ。いつも君は自分が使用人だと気にしているが、私には関係ないこと‥ここでは‥‥」

そこまで言いかけて、その先の言葉に迷ってしまった。



私は彼にどうして欲しいというのだろうか‥?
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