愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
そんな馬鹿な‥
この人が俺のことを好き‥だなんて、ある筈ないじゃないか。
駄目だ、だめだ‥期待なんてしちゃ駄目だ。
俺は胸の中に湧いた淡い期待を打ち消そうと、頭を軽く振った。
でも、
「君がこうして傍にいてくれるだけで、ずいぶんと私は救われているよ。あの時、駆け寄ってきてくれたのが二宮君でよかったと感謝している」
そう言って、不意に伸びてきた腕が俺の肩を抱き寄せ、その広い胸に包まれた瞬間、打ち消したばかりの感情が溢れ出して‥
この腕を‥、この温もりを離したくない‥‥
そう思ってしまったんだ。
許される筈なんてないのに‥
「旦那様の胸はなんて温かいんだろう‥」
智さんもこうしてこの胸に抱かれていたんだろうか‥
この全てを溶かしてしまうような熱い胸に‥
なのに智さんは、この腕を離してしまった。
こんなにも温かいのに‥
「今日は何時までいられる?もし君さえよければ、夕食を共に出来ないかと思ってね?どうだい?」
「私が‥、旦那様と‥?いけません、私のような使用人風情が、旦那様のような方と食事を共にするなんて‥」
出来ないよ‥
俺は俺を丸ごと包む胸を軽く押しやると、その腕の中から抜け出し、羽織の襟を引き寄せた。
「私は構わないが‥。それに君は私の大切な客だ。客をもてなすのは、紳士として当然の振舞いだとは思わないかい?」
「で、でも‥‥」
返事に困る俺を他所に、相葉雅紀は腰を上げると、俺にこの場で待つように言い置いて、離れを出て母屋へと向かった。
どうしよう‥、まさかこんなことになるなんて‥
出来る事ならあの人と一緒にいたい‥
でも‥、でも‥‥
やっぱり駄目だ、許される筈がない。
帰ろう‥
そう思って腰を上げ、羽織を脱ぎかけたたその時だった。
「どこへ行くんだい?‥直に食事の支度が出来ると言うのに‥一体どこへ‥?」
一度は肩から落ちた羽織がかけられ、すっかり冷えてしまった背中に温もりが戻ってきた。
「どうして‥、どうして私の様な者に、そんなに良くしてくださるんですか?」
そんなに優しくされたら、勘違いしてしまう‥
貴方も俺のことを‥ってね。
あるわけないのに‥‥