愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
和也said
いつしかあの人から貰ったキャンディーが、一日の終わりの楽しみになっていた。
甘い香りと味が、身体に溜まった疲れを取り除いてくれるような・・そんな気がしていた。
でもそれも数日・・
箱が少し軽くなる度に、寂しさを感じた。
そしてとうとう箱が空になった頃、再び休暇を利用してあの人の元を訪ねた。
キャンディーが欲しいわけじゃない。
ただあの人に・・相葉雅紀に会いたかったんだ。
「寒かったろうに‥すまなかったね。こんな遠くまで‥」
木枯らし吹き荒ぶ中、屋敷を訪ねた俺に、相葉雅紀は心底申し訳なさそうな顔をする。
俺がどうしても会いたくて、勝手に来ただけなのに・・
だから俺は、
「これぐらいの寒さなら、へっちゃらです」
冷たくなった鼻先を、指で擦って見せた。
本当に平気だったんだ・・
この人の顔を見たら、胸が急に温かくなってきて・・
だから、全然寒くないんだ。
なのに・・
「そんなことはあるまい‥部屋には火鉢もあるから、少しは温まるはずだ」
どこまでも優しいこの人は、俺の肩に翠緑色の羽織まで掛けてくれて・・
「‥これは‥?」
しかも寸法まで俺に合わせてある。
「昔ね‥私が使っていたものなのだ。下がりのもので悪いかとは思ったのだが‥無いよりはましだろう」
「そんな‥尚のこと、貸していただくわけには‥」
俺なんかのために・・
「いいんだよ。‥もう使うことのないものだ。遠慮をすることは無い」
大きな手が、俺の背中を押す。
石畳を二人で並んで歩く。
たったそれだけのことなのに、重なっては離れる互いの足音が何だかおかしくて・・
ふと俺が見上げると、俺を見下ろす優しい眼差しと視線が絡んだ。
火鉢に火を入れてくれて、二人でしてそこに手を翳すと、翳した指先がじんわりと痺れたように熱くなる。
俺は次第に赤くなって行く指先を見つめながら、その向こうにある相葉雅紀の顔をずっと見ていた。
でも俺はあることに気付いたんだ。
相葉雅紀の座る向こう側・・押し入れのある場所に、ついこの間まであった筈の物が、今はすっかり消えていることに・・
あそこには確か、智さんの背広が掛けてあった筈。
なのにどうして・・?
まさかこの人も俺のことを・・?