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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第4章 落花流水



それからしばらく経った頃、また二宮くんは私を訪ねて来てくれた。


木枯らしが吹いているというのに、前と同じ絣の着物を着ていた。

冷たい風で余計に肌が白く見えたのに、鼻先だけが少し赤くなっている。


「寒かったろうに‥すまなかったね。こんな遠くまで‥。」

自分の我が儘な頼みの所為で、彼に寒い思いをさせてしまったことを申し訳なく思ってしまった。


なのに彼は

「これぐらいの寒さなら、へっちゃらです。」

そう晴れやかな笑みを零した。


まるで、たんぽぽのようなその笑顔につられて、私まで頬が緩んでしまう。


「そんなことはあるまい‥部屋には火鉢もあるから、少しは温まるはずだ。」


私が手にしていた翠緑色の羽織を肩に掛けてやると、

「‥これは‥?」

寸法のあうそれに驚く。


「昔ね‥私が使っていたものなのだ。下がりのもので悪いかとは思ったのだが‥無いよりはましだろう。」

そう言って襟を合わせてやると、思いの外ぴったりだった。


「そんな‥尚のこと、貸していただくわけには‥」


彼は困惑した表情を浮かべて‥


「いいんだよ。‥もう使うことのないものだ。遠慮をすることは無い。」

私にはこれぐらいの事でしか、気持ちを返すことができない。


「さ、ここは寒い。」

翠緑を重ねた背中を少し押して、屋敷の奥に向かって石畳の道を歩いた。


二宮くんの軽やかな下駄の音と、ひたひたという私の草履が重なっては離れる。


こんな風に智以外の者と並んで歩くことなど、少し前の私は考えもしていなかった。


石畳の切れ目を見つけては、こちらを見上げて微笑む青年に、自然に微笑みを返していた自分がいた。




人気の無かった離の部屋で火鉢に火を入れると、じんわりと温もりが広がった。


鉄瓶に湯を沸かしながら、2人してそこに手を翳す。


白くて丸っこい手がほんのりと色づいたのを見ると、心が穏やかになった。


「君がこうして傍にいてくれるだけで、ずいぶんと私は救われているよ。あの時、駆け寄ってきてくれたのが二宮くんでよかったと感謝している。」


鉄瓶から立ち昇る湯気の向こう側‥


微笑んでいた彼の頬に翳りが差したことに、私は気がつかなかった。


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