愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
雅紀side
それからも、私は度々離に足を向けていたが、懐には二宮くんに返さなかったハンカチを忍ばせて行くようになった。
懐のなかにハンカチがあるというだけで、少しだけそこが温かいと感じ、気がつけばそこに手を当てている自分がいた。
すっかり寒くなってきた離の部屋の火鉢に火を入れ、智の面影を追っている時も、ふと二宮くんはどうしてるだろうかと、知らず知らずのうちに彼のことを考えていた。
冷たい風が障子窓を揺らすたびに、寒い思いはしていないだろうかと‥
小さな手をかじかませてはいないだろうかと。
気がつけば‥智のことを想う時間より、二宮くんの心配ばかりをしている自分がいて、思わず、くすりと笑みが零れた。
‥いつぶりだろうか‥。
こんな風に自然に笑みが零れるなんて。
がらんどうだった私の心の中は、いつしか二宮くんのはにかむような笑顔で温もりを取り戻していった。
それと同時に‥智との思い出が辛く胸を締めつけることも少なくなってきて‥
共に過ごした時間も、少しずつ色褪せていった。
あれだけ愛し、執着した存在だったというのに。
私は衣紋掛に掛けていた小さな背広を下ろすと、丁寧に畳む。
小さな見頃に短い袖。
手触りのいい布地に指を滑らせる。
‥‥こんなにも小さかったのだな‥
懐かしく思い出すあの頃。
畳に広げた風呂敷の上に、丁寧に畳んだそれを置き、最後にひと撫でした。
彼との最後の思い出の品を、ひと折り‥またひと折りと包む。
もうこれを広げることは無かろうと、儚く美しかった彼との記憶もそこに包んでしまうかのような思いでそれを包み終えると、空になっている箪笥の引き出しの中に、そっと入れる。
そして少し重い引き出しを押しながら、全身で愛した人への想いに別れを告げようと‥
「‥智‥‥私は君を‥愛していた‥‥」
幾度も流した涙が、また頬を伝う。
「‥‥君が選んだ先に‥‥幸せがあるのならば‥私は喜んで見送らねばならないのだな‥。」
それを君が望むのであれば‥‥
ぴたりと閉じてしまった引き出しから滑り落ちた手を握りしめ、心の中で微笑んでいる智へ最後の別れを告げた。