愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
雅紀side
この障子窓から、よく一緒に裏庭を眺めていたな‥‥
枝先に留まった小鳥を見つけては微笑み、少し風が吹いては寒いと言って、小さな身体を寄せてくるのが愛おしくて。
いま足もとで膝を抱えて座っている青年のように、私を見上げていたことを思い出す。
柔らかな日差しの中で、迷い子になった仔犬のような表情で私を見ている彼が、こうして傍にいてくれるだけで、裏庭の景色も少し穏やかな気持ちで眺めることができた。
彼の温もりが‥冷え切った私の心を少しだけ温めてくれた。
偽らざる私の心の内を知っているのは、
この青年だけ‥。
そして智がどうしているのかを知り得るのも、
彼だけ。
‥‥今更‥智のことを知ってどうする‥?
聞いても‥悲しみが深くなるだけだろう。
愛しい人と過ごした日々は、幻のように消え去ったとしても、私の心の内にあるものまでは奪い去ることはできまい。
もう暫くだけ‥君の幻を抱くことくらいは許してはくれまいか‥?
そして傍らで私を慮るように見つめてくれる青年と、時間(とき)を過ごしたいと思うことを、情け無い男だと笑わずにいてくれまいか‥?
私の心は‥一人では立っていることもできないほど、君に寄り添っていたのだ。
足もとに蹲る青年の髪は柔らかくて、昔の君の面影を重ねてしまいそうになる。
「どうにも寂しくてね・・。たまでいいのだ・・、こうして尋ねて来ては、私の話し相手になってはくれないだろうか?」
「はあ、私で良ければ何時でも‥」
いつまでも慕情を断ち切れない情け無い男の頼みを、戸惑いながらも承諾してくれた‥‥
「‥よかった。ところで‥君の名前を教えてはくれないかい?」
少し乱してしまった髪を梳いてやりながら、伏せられそうになった薄茶の瞳にそう尋ねる。
「‥二宮‥和也といいます‥。」
「二宮くん‥もっと早くに聞いておくべきだったのに、すまなかったね。」
二宮と名乗った青年は羽織の襟を押さえてた指先にきゅっと力を入れて、小さくかぶりを振った。
「ああ‥また乱れてしまったね。」
棧から腰を上げて向かいに膝をつくのを追っていた彼は、手櫛で髪を直す私を見て、一瞬目を見開いた。