愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第4章 落花流水
「とてもね、小さかったんだよ、出逢った頃の智は‥。この腕に抱いたら壊れてしまうんではないかと思うくらいにね‥」
そう言って、相葉雅紀は一瞬頬を綻ばせ、丁度裏庭に面した障子窓を開け放った。
途端に吹き込む冷たい風に、更に細くなった身体が、一瞬小さく震えたような気がした。
「智はね、ここからの景色が好きでね‥」
窓の桟に腰をかけ、そこから見える風景に想いを馳せる目の前の男が、今にも消えてしまいそうに儚く見えて‥
「‥綺麗な庭‥ですね‥‥」
俺はその足元に膝を抱えて座ると、肩に掛けられた羽織の襟を引き寄せた。
「寒いかい?」
あの人に掛けられる筈の言葉が、俺に向けられる。
それがとてもむず痒くて‥、でも嬉しくて‥
「少しだけ‥」
小さく答えて、肩の先をコツリと膝に当てると、窓の外に向けられたままの相葉雅紀を見上げた。
窓から差し込む柔らかな日差しを浴びる横顔が、とても綺麗で・・
一瞬、胸が大きく波打って、俺は相葉雅紀から目が離せなくなる。
なんだこれ・・
俺の心臓・・煩いよ・・・・
「・・あの子は・・・・智はどうしている?」
視線を窓の外に向けたまま、まるで艶を失くした掠れた声で言う。
そうだ・・、この人の心にあるのは、今でも智さん・・ただ一人・・・・
「さあ・・使用人の私には何も・・」
屋敷の何処かにいるのは確かだ。
でも俺はまだあの人を見付けられずにいる。
「そうか・・そうだな。松本のことだ、悪いようにはしていないだろう・・」
だと、いいのだけれど・・
「それより・・君に借りたハンカチだが・・・・」
「ええ・・」
「もう暫く私の元に預らせて貰っても構わないかな?」
「・・構いませんが・・どうして?」
ハンカチの一枚や二枚、別に惜しくもないけど・・
「良かった。これで君をまた誘う口実が出来たよ」
「えっ・・それは・・あの・・・・」
「どうにも寂しくてね・・。たまでいいのだ・・、こうして尋ねて来ては、私の話し相手になってはくれないだろうか?」
大きな手が俺の頭に乗せられ、髪が混ぜられる。
それがとても心地良くて・・
「はい、私で良ければ何時でも・・」
例えそれが智さんの身代わりだったとしても、俺は・・