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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第4章 落花流水


和也said


あの人の居なくなった部屋は、とても薄暗くて・・

襖を開け放つと、冷たい空気が流れる出して来て、俺は一つ身震いをした。


「すまないね・・少し寒かったかい?」


思わず竦めた肩に、ふわりと感じる重み。


それはまるで身体ごと包み込まれてしまいそうなくらい大きくて、そしてとても暖かくて・・

ついこの間まで、智さんがこの温もりに包まれていたのかと思うと、なんだか申し訳ない気持ちが溢れて来る。


「そっ・・そんな・・滅相もございません。それでは旦那様が・・」


俺なんかより、目の前にいるこの人の方が、よっぽど寒々しく見える。

なのに・・


「ここは冷える・・温かくしてなさい」


慌てて脱ごうとした羽織がかけられて・・


礼を言おうと顔を上げた俺の目に映ったのは、あの時のように静かに頬を伝う涙で・・


「・・・・あの方を思い出しておられるのですか・・?」


俺はそっと手を伸ばし、頬を濡らす涙を指で掬った。


「ああ・・智にもよく衣を掛けてやっていた・・。彼は夢中になると、何もかも忘れてしまう質でね」


掠れた声が主をなくした空っぽの部屋に響き、相葉雅紀はその瞼を伏せた。


智さんと一緒にいる時は、あんなにも・・そう、お天道様のように暖かな光を放っていたのに・・

それが今ではどうだ・・・・

頬は痩け、黒曜石のように輝いていたあの瞳は光を失くし、まるで精彩を欠いているではないか・・


「・・そんなに大切にされていたのに・・」


なのにあの人は・・

これ程までに思われていたのに・・

見る者の印象すら変えてしまう程に、愛されているのに・・


もう二度と戻らない知りながら、それでも愛を叫んでいるのに・・

幻だったんだと自分に言い聞かせるように、涙を流す人がいるのに・・

智さん・・貴方はなんて罪を・・・・


あの人がここにいた証を求めるかのように、相葉雅紀が視線を巡らせる。


そして押し入れの前に、衣紋掛に掛けられた小さな背広に目を止めると、まるで懐かしむように目を細めた。


あの人が着ていた物だ‥

生まれ育った屋敷を追われた時、智さんが唯一持ち出した、あの背広がそこには掛けられていた。
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