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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第13章 雲外蒼天


「ここで僕は雅紀さんに拾われたんだ…」

先の見えない不安に小さな身体を震わせ、膝を抱えて泣いていた僕を、雅紀さんは優しい言葉と、暖かな微笑みで包んでくれた。

「もしあの時、雅紀さんが僕を拾ってくれなかったら、今頃僕は生きていなかったかもしれない。翔君に会うことだってなかったかもしれない…」

僕にとっては特別な木…

始まりの場所。

「まさかまたここに戻って来る日が来るなんて…、思ってなかった…」

とうに切り倒されてしまったものだとばかり思っていた。

「君を待っていたんじゃないかな…」

「僕…を…?」

「この場所から君の運命が始まったのなら、新たな未来を始めるのはこの場所からだって…」

新たな未来…

あの頃には思い描くことすら出来なかった未来…

「描けるだろうか…、僕にも未来が…」

「描けるさ、二人ならきっと…」

見上げた視線に、春の木漏れ日よりも暖かな翔君の視線が絡む。

それだけで僕の胸にそよ風が吹き込み、悲しみも、苦しみも、そして不安も…全てを浚って行く。

「あ、ほら見てご覧?」

翔君が見上げた先の枝を指差す。

「あ…」

そこには、まだ小さくて、硬いけれど、新たな生命が確かに芽吹いていて…

「あの芽が花開く頃にまた来よう」

「うん…」

頷いた僕の手を、翔君の手がきゅっと握る。

そして僕の肩をそっと抱くと、

「行こうか」

春の風に背中を押されるように、一歩を踏み出した。



僕達が歩むこの先の未来は、きっと平坦な道ばかりじゃない。

幾多の試練や困難が待ち受けているだろう…

でもこの人となら乗り越えて行ける。

愛と言う名の鎖で固く結ばれた僕達なら、きっと…



戛々(かつかつ)と馬の蹄の音が響き、カラカラと車輪が軋む‥


その音は、僕達を希望に満ち溢れた明るい未来へと誘うように響き続けるだろう…


永遠に…


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