愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
「ああ、そんな顔をしないでおくれ?」
「だって…、翔君が勿体ぶった口振りをするから…」
拗ねた素振りを見せた僕の頬を、済まなかったね…、と翔君の手が撫でた。
たったそれだけのことで、不安が取り除かれて行くのだから、不思議だ。
「実はね、ある人を君の世話係として、葉山の別荘に置くことにしたんだ」
「世話…係…?」
「だって智一人では、食事の支度はおろか、着替えだって出来ないでしょ?でね、兄さんもそれを酷く案じておられてね…」
「潤…様が…?」
あの人がそんなことを…
「智は放っておいたら、食事もろくに取らないし、一日中裸で過ごしてしまう、野生児のような子だから、って兄さんが…」
そこまで言って、翔君がしまったとばかりに口を手で塞いだ。
確かに翔君の言う通りだ。
僕は自分では何一つ出来ない。
だからって野生児なんて…
「酷いよ…。僕はそんな風に思われていたなんて…」
僕は態とらしく唇を尖らせた。
すると翔君は、その尖らせた唇に自分の唇を重ね、くすりと笑った。
もう…、口付け一つで誤魔化されたりしないんだから…
「それで?ある人、って言うのは?僕の知ってる人?」
と言っても、僕に知り合いなんて、殆どいはしないけれど…
「そうだね、君も良く知ってる人だよ?それに君の御両親のことも、良く知ってる人だよ?」
当ててごらん、とばかりに翔君が僕の鼻先を指の先で突く。
「僕の両親を…?となると…あ、もしかして…」
まさか…、そんなことが…?
でも潤様なら…
「澤さん…なの?ねぇ、そうなの?」
「正解。実はね、俺も兄さんがどんな手を使ったかは知らないんだけど、どうやら便宜を図ってくれたみたいでね。でも放免されたところであの歳だし、行く宛もないだろうから、だったら智の世話係に、って…。どう、驚いた?」
驚きのあまり声も出ない僕を、翔君の腕が抱き寄せた。