愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
「良かったのかい?本当は兄さんに会いたかったんじゃ…」
馬車に揺られながら、翔君が僕を胸に抱き寄せる。
僕は翔君の鼓動を探るように胸に手を宛て、そっと瞼を閉じた。
「いいんだ。今はこれで…。いつかお互い許し合える時が来たら、その時は…その時には、僕だって今よりは大人になっているだろうから…」
そう…今はまだ、僕達の間に出来た大きな痼(しこり)を拭い去ることは出来ない。
でも時が経てば…
時さえ過ぎてしまえば…
「まだ兄さんを憎んでる?」
「どうなんだろう…。憎んでいないと言ったら嘘になるけど、でも以前のような感情はないかな…。それよりも今は、潤様に感謝してるんだ」
「感謝…?弟のおれが言うのもなんだけど…、あんなに酷い目にあわされたのに?」
「うん。僕はこれまで、両親を殺された復讐をいつか果たすためだけに生き長らえてきた。でもね、気付いたんだ…、復讐なんて結局誰も幸せにはならないって…。寧ろ不幸を齎すだけだ、って…。それを教えてくれたのは、潤様だったような気がするんだ…」
僕が潤様を通して松本の旦那様を憎んだように、きっと潤様も僕に怒りをぶつけることで、その苦しみから逃れようと藻掻いていたんじゃないか、って…
「そっ…か…」
そう言ったきり翔君は口を閉ざし、さらりと指で僕の髪を撫でた、
それがとても心地よくて…
僕は胸に埋めた顔を少しだけ上向けると、もっと…と強請るように翔君を見上げた。
「あ、そう言えばさっき雅紀さん達に言うのを忘れていたんだけどね…」
何かを思い出したのか、僕の髪を撫でていた手がぴたりと止まった。
「どう…したの…?」
悪い知らせだろうか…
僕はほんの少しの不安に、翔君の背広の襟をきゅっと掴んだ。