愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
旅立ちの日は、冬の名残りを溶かしていくような麗らかな春の陽射しが心地よく…
穏やか朝を迎え、身支度を整えた和也は大きな風呂敷包を傍らに置き、その時を待っていた。
縦縞の真新しい袴は、幼さの残る面立ちを大人びたものに見せていて、この姿を雅紀さんが見たら感極まって涙腺が緩んでしまうんじゃないかってほどで
「よく似合ってるよ。着るもの一つでこんなにも変わるものなんだね」
感慨もひとしおだった。
だけど当の本人は顔を強張らせていて
「坊ちゃん…後生ですから、これ以上揶揄わないで下さい。恥ずかしくて身の置きどころがありません…」
恐縮してしまい、体を小さく丸めてしまう。
「揶揄ってなんかいないって…もっと堂々としていいんだよ?」
おれは背広を片手に、馬車の用意はまだかと窓の外を眺める。
それに釣られた和也も窓の方に顔を向け、すぅっと息を吸い込むと、背筋を伸ばしてせた。
「はい…堂々と、ですよね。なんとか…頑張ってみます」
そう視線を上げた顔は、旅立ちの期待と不安の入り混じったもので、おれはそれを見送る親のような気持ちになった。
兄さんも、そんな風におれを見守ってくれてたんだな…
おれは記憶にあるそれを真似るように、少し笑って
「何も心配することはないよ。思う存分に楽しんでくるといい」
兄さんの口癖そのままに、彼を励ました。
でも慣れない兄貴風を吹かせたものだから、なんだか擽ったくなってしまい…
「あ、あの…どうして笑うんですか?やっぱり私の格好、変でしょうか?」
くすくす笑い出したおれに、彼はしどろもどろに訊ねる。
おれは慣れないことはするもんじゃないなって、口元を手で覆い笑いを収めると
「ごめん、ちょっと兄さんの真似をして偉そうなことを言ってみたけど、まだおれには早かったかなって…」
不安にさせてしまったことを、軽く詫びた。