愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
智と雅紀さんに見送られ、家路へと急ぐ馬車の中…
和也は寝坊をしてしまうほど仲睦まじく過ごせたというのに、少し寂しそうな顔をしている。
「浮かない顔だね…、雅紀さんは寄宿舎に入ることに賛成してくれなかったの?」
あの雅紀さんが、己を高めるということに異を唱えるような人には思えないんだけど、心配性なところも多分にあるから、少し心配ではあった。
おれが俯き加減の色白の顔を覗き込むと、彼は困ったように笑い、誤魔化そうとする。
「そうやってさ…胸の中にしまい込むのはよくないよ?」
とは言っても使用人って立場で話せることは少ないんだろうけど、弟がいないおれは、兄のような気持ちで彼を見守っていきたくて。
じぃっと見つめていると
「実は…少しだけ、やきもちを妬いてしまって…」
と小さな声で口籠もりながら白状する。
「やきもち?あぁ…さっきのあれね…」
おれはすぐに和也のいう、やきもちを妬いた事柄を思い当たり、可愛らしさに笑みが溢れた。
『智…、私も君と共に過ごした時間(とき)を忘れない。幸せになるんだよ』
そう語りかけた雅紀さんの言葉に特別な意味は無かったんだろうけど、和也にしてみたら、自分の恋人の胸の中に智が居続けるっていうのは、寂しさにも似た不安があるのかもしれない。
「私はどうしたって智さんには…敵わないんです。伯爵家の出の智さんとじゃ…月とすっぽんですし…」
しょんぼりとした声で言う。
あーあ……
「それはね…出生は変えられないし、過ごしてきた時間は巻き戻せないけどね…」
自分の価値はそれだけじゃないと…思う。
「でもね、和也と雅紀さんには未来がある。おれと智にも共に歩んでいきたい道がある。まだ頁は真っ白なだけ…そこにたくさんの思い出を綴っていければいいんだと、おれは思うよ」
それは和也だけに向けた言葉じゃなくて、自分にも言い聞かせるようなものでもあった。
「私と雅紀さんの未来を綴る…」
「そう…それはもう始まってるんだよ?最初の頁が朝寝坊ってことにはなるけどね」
感慨深げにしていた和也をそう茶化すと、色白の顔は真っ赤に染まって…
でも、とても幸せそうな顔になった。