愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
するとそれまで口を開くことのなかった智が
「寂しくないといえば嘘になりますが…でも離れてはいても、一人ではないと思えるから…。それに葉山の別荘は父様や母様の思い出の場所だと聞いてますし、少しずつ…失ったものを取り戻していこうかと思っています」
自分の性分を知って心配する人を安心させるよう、歩みたいと思う未来を語る。
思い出に暖められるのは、決して悪いことじゃない。
幼い日を生き直して…亡き御両親との思い出の中で時間を過ごし、育まれるものもあるんだろうと思う。
「多分…兄さんは自分が生き直せないって感じてるから、智だけでも救いたいって思いがあって、葉山の別荘を買い戻してくれたんだと思います。おれは…兄さんのその思いにも報いたい」
おれはこれから自分達が前を向いて歩んでいくことが、たくさんの人達への恩返しになるって信じたかった。
「御両親の思いを大切にする時間も必要なのかもしれないね。そこから…また新たに旅立ちの時を迎えても遅くはなかろう」
二人して懸命に言葉にした思いにようやく納得してくれた雅紀さんは、穏やかな表情へと変わり、深い頷きをくれた。
やはり、智のことを守り続けてきてくれた人だから…
彼の納得を得られずには、いられなかった。
それは智も同じことで
「時間は掛かるかもしれませんが、自分と向き合って、気持ちの在り様を描けるようになればと」
「では、また絵画を…?」
「はい…雅紀さんに揃えていただいた沢山の絵の道具、大切に使わせていただきます」
短い半生を振り返り、寄り添ってくれていた人を大切に思う気持ちに変わりはなかった。
そんな智の言葉を聞いた雅紀さんは、嬉しそうに目を細めて
「嬉しいことを…言ってくれるじゃないか…」
声を詰まらせる。
「僕…雅紀さんが初めて連れていって下さった商店のこと、今でも覚えています。一緒に食べたお団子の味も…忘れられない大切な思い出です」
「…智……」
「あなたがいて下さったから、こうして翔君とも出会えました。本当に…ありがとうごさました」
二人だけにしかわからない思いだけれど、涙ぐむ姿は、とても優しい風景に見えた。