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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第13章 雲外蒼天


智side


夢の続きを見ているんだと思った。

眠りに就く前に、翔君のことばかり考えていたから、まさか本当に翔君が逢いに来てくれるなんて、俄には信じられなくて…

冷たい指先で頬を撫でられても、まだそれが現実なんだということが受け止められずにいた。

でも暖かな胸から伝わってくる鼓動は、確かに現実で…

僕はその暖かな温もりを離したくなくて、恐らく朝露に濡れた葉の合間を縫ってここに来たんだろう…、微かに濡れた外套の襟をきゅっと掴んだ。

四十九日が済み、漸く逢いに来ることが出来たと言った翔君は、以前よりもほんの少しだけ大人びて見える。

きっと僕には想像もつかない程、この数日間は悩み苦しんで来たんだということが、その表情からも、そして語りかける口調からも見て取れる。

だから、あの潤が罪滅ぼしのために別荘を買い戻したと聞かされても、それを疑うことなく、真っ直ぐに受け止めることが出来た。

「兄さんはね、とても不器用な人なんだ。だから、本音では智のことを愛していても、それを口にすることは、どうしても出来なかったんだと思う」

「うん、知ってる…」

「えっ…、どうして…?」

「だって雅紀さんにも同じことを言われたから…」

あの時…、錯乱状態だった僕は、雅紀さんの言葉に、どれだけ救われたか知れないから…

「そっか…、やっぱり雅紀さんは大人だね。俺なんて、まだまだ兄さんや雅紀さんの足元にも及ばないや…」

小さな溜息を一つ落として、僕を見下ろす視線が、自信無さげに細められる。

僕はそっと手を伸ばすと、赤みの刺してきた頬を包み込んだ。

「そんなことない…。翔君だってもう立派な大人だよ?」

それに比べて僕はまだこうして誰かの加護を受けなければ、自分の足で立つことすら出来ないのに…。

「いいや、兄さん達に比べたら、俺なんてまだ…。それでね、智。俺、考えたんだけどね…」

「何…を…?」

僕はそれまで寄りかかっていた身体を起こし、唇をきゅっと引き締め、真剣な表情(かお)をした翔君に、真っ直ぐ向き合った。
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