愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
「ううん…、でも、僕も翔君に会いたくて堪らないって思ってたら夢に出てきてくれて、目が覚めたら本物の君がいたから…すごく嬉しかった」
智は布団から半分ほど出て起き上がり、俺は寝間着姿のその肩に半纏を掛けてあげた。
「智…ずっと会いにくることができなくて、ごめんね。急なことだったから、色々と落ち着かなくて」
俺は布団から出たばかり暖かな身体をそっと引き寄せ、腕の中に囲い込むと、ぎゅぅっと抱き締める。
「もう…大丈夫なの?」
「うん、納骨も済んだし、会社の方も兄さんが引き継ぐことになったんだ」
「そう…潤様が…跡を……」
じっと胸に凭れ、静かに話を聞いている智。
彼の脳裏にはどんな思いが描かれてるんだろう…
あの惨劇の日から2ヶ月という時間を、どんな思いで過ごしてきたのか。
ずっと気になってて…
まだ父様を恨み、兄さんを憎み、闇の中から抜けられずいたならばと思うと、眠れない日もあった。
「兄さんね…、智が雅紀さんのところにいるのは見当がついてたみたい」
すると丸まった背中が、ぴくんと震える。
「ん…一度だけ、会った…」
「…聞いたよ……」
「あまり話すことはなかったけど…、すまなかったって」
「だからなんだと思うけど、俺の知らない間に、兄さん…葉山に残ってた大野家の別荘を買い戻してくれてたんだ」
互いにほろ苦さを感じる言葉を、静かに受け止めあっていたけれど、
「うちの…別荘?」
智は予想もしていなかった話に驚いたように顔を上げた。
「葉山…に、そんなものがあったことすら、知らなかった…」
多分、彼の言葉は本当なんだろう
独りになった智は、あまりにも幼かったから、自分が手離さなきゃならなかった物の全てを解りようもなかったはず。
「でも、なんで今更そんな物を?」
訝しげな表情になった智は、兄さんの真意が解らないといった様子で首を傾げる。
「それは…兄さんなりの罪滅ぼしなんだと思う」
面と向かっての愛情表現の仕方が解らない不器用な兄の、精一杯の気持ちを伝えたいって思った。