愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
「どうして…なんで、ここにいるの?どうやって入ってきたの?」
亀みたいに布団の中に首を引っ込めた智は、驚いた表情(かお)のまま、矢継ぎ早に問いを重ねる。
「ふはは…、智ってば驚き過ぎだよ」
俺にはおどおどしたその様子がなんとも可愛らしくて見えてしまい、笑みが洩れた。
寝起きに驚かせてしまったのは申し訳無かったと思う反面、好きな人の新たな一面を垣間見ることができた喜びもあり。
「だって、ここ…雅紀さんのお屋敷なのに…」
「実はね、こっそりと忍び込んじゃったんだ」
「し、忍び込んだだなんて…」
「こんな早朝に御宅を訪ねるなんてできないでしょう?だから、和也に秘密の入り口を教えてもらったんだよ」
只々驚いている彼に種明かしをすると、あっと小さな声を洩らし
「そっか…あそこなら誰にも気付かれない」
合点がいったような表情へと変わった。
俺は、主人に忠実な彼が雅紀さんの元にいた智とどうやって会っていたか気になって、随分と前に聞き出していた秘密の入り口の話をして聞かせた。
「昨日、和也とは会わなかったの?」
「うん…雅紀さんの母様と出掛けていて、気が付いたのが遅い時間だったから…」
折角、遣いに出した彼とまだ会っていないという智は、視線を彷徨わせる。
「なら仕方ないね。まだいる筈だから、後で一緒に会いに行こう?」
「あ、うん、そうだね…でも、遅めの方がいいかも…」
「どうして?善は急げっていうのに。会いたくないの?」
なんとなく会うのを渋るような口振りを不思議に思って訊ねると、
「その…久しぶりに会ってる二人の睦事の邪魔をしちゃ悪いというか…」
って、恥ずかしそうに視線を逸らしたまま、言葉尻を曖昧に濁した。
睦事……
俺はあまり深く考えずに聞いてしまったそれに、どくんと心臓が跳ねて。
自分の無頓着さが恥ずかしくなってしまった。
「ごめん…、俺、そういうことに疎くて…」