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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第13章 雲外蒼天


翔side


「智…さとし……」


朝の冷え込みで火の気の無い離の一間は息も白く、こんもりと布団に包まった智は気持ち良さそうに寝息を立てていて、いくら呼んでも中々目を覚ましてはくれない。

俺は外套を着込んだまま枕元に座って、毛先を梳いてみたり、頬を擽ってみたりと、久しぶりに見る彼をゆっくりと眺めながら時間を過ごしていた。


四十九日も過ぎて屋敷の中も落ち着きを取り戻し、ようやく外に足を向けられるようになった俺は、早朝に屋敷を抜け出してきたのだった。



「いい夢…みてるのかな」

眠りの中にいる智は時々、ふわりと頬を緩め、柔らかな表情を浮かべる。

その幸せそうに見える眠りから連れ出すのが可哀想な気もしたんだけど、

「そろそろ起きてくれる…?声、聞きたいな…」

あの日別れてから一度も会えなかった人の声が聞きたくなった。


すると、それに応えるかのようにもぞっ身動ぎをした智は、薄っすらと目を開けると、ぼんやりと一点を見つめて。

その視線がつーっと俺の外套を辿り、ようやく目が合ったっていうのに、まだ夢の中にいるような表情のままだった。


「おはよう…智、よく眠れた?」

夢見心地の彼に朝の挨拶をすると、ゆっくりと瞬きをしたものの、夢か現か解っていないようで

「翔君が…いる…」

呟きを洩らす。

「ふふ、智はまだ夢の中にいるの?折角会いに来たんだから、そろそろ目を覚ましてくれると嬉しいな」


これは夢なんかじゃないよって。

やっと、夢が叶って…

穏やかな朝を迎えることができたことを、二人で分かち合いたかった。


俺が暖かい頬を指先で擽ぐると

「翔君…本物の、翔君…?」

智はようやく眠りの中から、夢のような現へと抜け出してきたようだった。

「うん…お化けじゃないよ?こうやって触ってるの、分かるでしょ?」

そう言って、指の先で擽っていた頬を包み込むと冷たく感じたのか、彼は少し驚いたような表情になり、首を竦めた。
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