愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
智side
御婦人方と言うのは、どうしてああもお喋りがお好きなんだろう…?
とても普段は貴婦人然としている御婦人方とはとは思えない、賑やかな光景を思い出しては、くすりと笑う。
僕の母様も、もし生きてらしたら、美味しいお茶やお菓子を口実に、あんな風に御婦人方とお喋りを楽しんだりしたんだろうか…
久しぶりの外出と、お喋り好きな御婦人方の相手に、少々の疲れを感じながらも、それでもどこか浮かれた気分のまま、雅紀さんに帰宅を知らせるために階段を駆け上がった。
御婦人方が持たせてくれた沢山のお菓子を携えて…
でも、階段を上がりきった所で聞こえて来た、絶え間なく響く嬌声にも似た声に、僕の足はぴたりと止まった。
今のは…、和也の声…?
幼い頃から耳に馴染んだ声を、僕が聞き違える筈はない。
そうか…、和也が来ているのか…
だったら僕が邪魔するわけにはいかないな…
僕は沢山あるお菓子の中から一つだけ衣囊(ポケット)に入れると、残りを雅紀さんの部屋の木扉の前に置いた。
和也に土産代わりに持たせてやればいい。
僕は駆け足で自室でもある離れへと戻ると、着替えもそこそこに布団に潜り込んだ。
和也のあんな艶めいた声を耳にしたせいか、下腹部が微かに熱を帯びていた。
そっと下帯の中に手を忍ばせ、瞼の裏に愛しい人の姿を思い浮かべた。
「会いたいよ、翔くん…」
会いたくて会いたくて…
強く強く抱き締めて欲しくて…
ぽつりと言葉と同時に、涙がぽろりと零れる。
僕はその晩、強かに濡らした枕と下帯と、程よい疲労感に満ちた身体を、吸い込まれるように眠りに落とした。
まさか、目が覚めた時に、思いがけない人が僕の寝顔を見下ろしている…
なんて、夢にも思わずに…