愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
「雅紀さん…、もうこれぐらいでよしませんか…?ここで3軒目ですよ?」
筆記具や袴などを買い求め、下駄を買ってなかったことを思い出して履物屋に入ろうとすると、和也は慌てた様子で袖を引いた。
「そうだが…下駄は必要だろう?」
「ですけど、いくらなんでも、そこまでして頂く訳には…。下駄はお給金で用意しますから…それに、もう日も暮れてきましたし、お屋敷に帰りましょう?」
そう言われて辺りを見回すと、陽射しの弱かった空は、日暮れも間近に迫っていて、吹く風も刺すように冷たくなっていた。
それに傍らにいる和也は余程寒いのか、鼻の先が赤く染まり、目には薄っすらと涙が滲んでいて…
「仕方がない…続きはまた、今度にしよう」
「あの、また今度って…まだ要り用な物が?」
「まだまだあるよ。寝間着や風呂の道具やら…言い出したらきりが無い」
「はぁ…そんなに、ですか…」
更に私の言う要り用な物の多さに、驚いているようだった。
寄宿舎ともなれば貴族階級とはいかなくても、商家などの裕福な家の子息が多く集まる。
そんな中に和也を送り出すのだから、不足があってはならないと気が急いていた私は、その世界を知らない彼を驚かせてしまったようで
「すまない…、心配のあまり、つい過保護なことをしてしまって。気を悪くしないでくれるかい?」
萎縮してしまいそうになっていた彼に詫びた。
「いえ、そんな…っ、私がぼんやりしていたから」
「知らなかったのだから、仕方あるまい。翔君も卒業を控えて忙しくしているだろうから、気が回らなかったんだろう」
「そうですよね…」
「だから、よかったら、私を頼って欲しいと思うが嫌かい?」
大切な人の新しい門出を恙なくという、親心にも似た思いがあった。
すると彼は一度落とした視線を上げると
「お願いします。今は雅紀さんに頼ってしまうけど、必ず…貴方に相応しい人間になることをお約束します」
迷いが吹っ切れたような清々しい目をしていた。
希望と旅立ちへの決意に満ち溢れた表情は、彼を少しだけ大人びたものに見せている。
愛らしいだけではない…
新たな魅力を放つ恋人が、益々愛おしくて堪らなくなった。