愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
雅紀side
聞けば、寄宿舎に入ることを勧めてくれたのは翔君らしく、それに係る金銭も面倒をみると言ってくれたらしかった。
「下働きの私にはそんなお金は払えないし、最初は仕事の合間に学校に行きたいって翔坊ちゃんにお話ししたんです。そしたらこれぐらいしか罪滅ぼしする方法が無いけどって仰られて…有り難くお受けすることにしたんです」
和也は智と運命を共にし、失ってしまった時間を取り戻せることに希望を抱き、目を輝かせていた。
私に見合う男になりたいと…
心を擽ぐるようなことまで言われてしまうと、首を縦に振るより他なかった。
「そうか…。寄宿舎に入れば、学びを深めることに専心できるだろうし、よき友にも恵まれる。それは和也にとって生涯の宝となるものになる筈だ」
「よき友…が宝に、ですか…?」
「ああ…私が松本のことを見捨てることができなかったのも、それまでに培ってきた友情があったからこそなのだよ。諍いはあっても、真に得られた友情があれば、雪解けの日を待つことだってできると私は思う。和也にも主従だけではない、肩を並べられる友が得られるように願っているよ」
彼は腕の中で、初めて言葉を聞いた子供のような純粋な瞳を向け、こくりと頷いた。
数年後、寄宿舎を出る頃には幼さも抜け、見識を広げ知識を得て、立派な青年になっていることだろう。
時は流れ、人は成長してゆく。
愛しい人が大きく羽ばたこうとしている姿を思い描くと、自分までもが気分が高揚していまい
「これから私と出掛けないか?」
と肩から外しかけた外套を直してやると、私の誘いが突拍子もなかったのか、驚きに目を丸くしてしまう。
「あ、あの…出掛けるって、どちらへ…?」
「決まっているだろう?寄宿舎に入るのなら、揃えなければならない物が色々ある筈。聞いてないのかい?」
「まだ何も…」
彼は困惑したような表情を浮かべ、口籠る。
「入学までにひと月ほどしかないのだから、少し急がねばなるまい」
私は困惑したままの彼を屋敷から連れ出し、昔馴染みの商店へと足を向けた。