愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
「それはそうと…、ゆっくりしていけるのだろう?」
「え、ええ、まあ…お許しは頂いてますけ…ど…」
俺が言い終えるよりも前に、雅紀さんの手が俺の肩から綿入れを落とす。
「あの…雅紀さん…?」
外套の釦を外し、更にその下に着込んだ半纏に手をかけた所で、雅紀さんが珍しく吹き出す。
「これは…随分と沢山着込んで来たものだ。もしや私への意地悪ではあるまいな?」
「そ、そんな…意地悪だなんて…。本当に寒かったんですもの…」
暦の上では春だと言っても、道端にはまだ雪だって残っているし、吹き付ける風は身を刺すように冷たいし…
「くくく、冗談だよ。だからそんな顔をしないでおくれ?」
余程拗ねた顔をしていたのだろうか、笑いを噛み殺した雅紀さんの顔が俺を覗き込む。
そしてそっと俺の顎先に手をかけると、優しく口付けをしてから、その広い胸の中に俺を抱き寄せた。
「どうだい?こうしておけば寒くなかろう?」
「…はい。とても暖かいです」
出来ることならずっとこうしていたい。
優しくて、暖かで…、いつまでも雅紀さんの胸に包まれていられたら、どんなに幸せだろう…
でもそれじゃ俺はいつまでも経っても雅紀さんと肩を並べて歩くことは出来ない。
「あの、実は雅紀さんに折り入ってお話が…」
「何だい、急に畏まって…」
「俺…寄宿舎に入ろうと思っているんです」
えっ…、と雅紀さんが一瞬驚きの声を上げる。
「寄宿舎とは…また急にどうして…。学校なら松本の邸からでもからでも通えるだろうに…。もしそれが出来ないのならば、ここからだって…」
俺は雅紀さんの胸に顔を埋めたまま、予想通りの反応に首を振った。
「それじゃ駄目なんです。それじゃ…」
雅紀さんの着物の襟をきゅっと掴み、驚きと落胆の色を隠せずにいる雅紀さんを見上げた。
「俺、ずっと考えてたんです。いつか雅紀さんに見合うだけの男になりたいって…。それには今のままじゃ駄目なんです」
雅紀さんの優しさに甘えてばかりの俺じゃ駄目なんだ。
自分の足で、しっかりと前を向いて歩けるようにならなくては…