愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
「所で今日はどう言った赴きかな?まさかこの寒空の下、わざわざ私に会いに来てくれた…訳ではあるまい?だとしたらこれ程嬉しいことはないが…」
半ば抱きかかえるようにして俺を寝台の端に座らせた雅紀さんが、茂さんのかけてくれた綿入れのせいで俄に汗ばんだ俺の頬を撫でる。
「坊ちゃんからお手紙を…」
「なんだ、そうか…。てっきり私に会いに来てくれたとばかり思っていたが…、残念だ…」
途端にがっかりとした様子で表情を曇らせる雅紀さんが、どこか幼い子供みたいに見えて…
俺はつい吹き出しそうになるのを抑え、懐に忍ばせた坊ちゃんからの手紙を雅紀さんの前に差し出した。
雅紀さんは俺の手から手紙を受け取ると、直ぐ様封を切り、中の書面に目を通した。
そして一言、
「子供だ子供だと思っていたが…、翔君も随分と大人になったようだな…」
そう言った切り、黙り込んでしまった。
「あの…、坊ちゃんは何て…?」
使用人の俺が立ち入ることではない…、そうは思っていても、坊ちゃんが雅紀さんに宛てた手紙の内容が気になって仕方ない。
「翔君はね、智を葉山の別荘に住まわせることに、したそうだ」
「葉山…ですか?」
「私も初耳なんだがね、どうやら葉山には大野家の別邸があるそうだ」
知らなかった…
大野家に関わる財産の全ては、既に無い物だとばかり思っていたから…
「松本も承知のようだから、恐らくは私に迷惑をかけないようにとの配慮だとは思うが…。そうか、寂しくなるな…」
俺から離れ、雅紀さんが窓辺に立つ。
そこからは智さんが暮らす離れが良く見える。
その背中が泣いてるように見えて、俺はちくりと胸が痛むのを感じた。
「あの、智さんは今…」
「ああ、智なら母上のお供でご婦人方のお茶会に出向いているよ」
「奥様の…?智さんが?」
「あの容姿だからね…、ご婦人方には随分可愛がられているようだよ?」
あの智さんが…?
どんな顔をしてご婦人方の間に座っておいでなんだろう…
きっと困ったように眉を下げて笑っているんだろうな…
想像するだけで笑いが込み上げて来る。