愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
和也side
庭先を白く染めた雪が溶け始めた頃、俺は坊ちゃんの遣いで雅紀さんの邸を尋ねた。
暦の上では春だと言っても、外の空気はまだ冷たく、防寒着を重ねても、一度風が吹けば、凍えるよえな寒さに鼻の頭がひりりと痛んだ。
なのにどうしてだか胸の奥がほんわり暖かいのは、雅紀さんに会えるからなのなろうか…
「ごめんください」
気を抜けば緩んでしまいそうになる顔をきゅっと引き締めて玄関先で声をかける。
「はいはい、ちょっとお待ちを…」
聞こえて来たのは、微かに関西訛りを含んだ茂さんの声だ。
茂さんは俺を見るなり、慌てた様子で廊下の奥へと駆けて行くと、見るからに暖かそうな綿入れを手に戻り、
「外は寒かっただろうに…。旦那様ならお部屋においでだから…」
そう言うと、俺の肩に綿入れを掛けてくれた。
「ありがとう…ございます…」
俺は茂さんに頭を下げると、草履を玄関の脇に揃え、雅紀さんの部屋がある二階へと続く階段を駆け上がった。
するといくつかある木扉のうちの一つが、俺の目の前で勢い良く開け放たれた。
「うわっ…!」
「おっと…」
驚いて尻餅をつく寸での所で、細いけれど力強い腕が俺を抱きとめた。
「すまない、驚かすつもりはなかったんだが、足音が聞こえた途端、いても立ってもいられなくなって、つい…」
心做しかはにかんだような表情で俺を見下ろし、髪を撫でてくれる。
ああ、やっぱりだ…
雅紀さんに頭を撫でて貰うと、ほんわか暖かくなる。
「それにしても、随分と着膨れをしているようだが…
ひょっとして茂が?」
「はい。お断りする間もなく…」
「余程和也が寒そうにしていたんだろうね?あれで茂は和也のことが可愛くて仕方がないようだから」
「茂さんが…ですか?」
目を丸くする俺の背中を押しながら、雅紀さんがくすりと笑う。
「勿論変な意味ではないよ?何と言ったら良いのか…、息子のように感じているんではないかな…」
「そう…なんですか…」
だからか…、お邸を尋ねる度、何かと気をかけてくれるのは…
何処の馬の骨とも分からないような俺に…
ありがたいことだ。