愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
何度か木扉を叩く。
でも部屋の中からの返事はなくて…
疲れて休んでおられるんだろうか…
考えあぐねた俺は、木扉の横に、布巾を被せた盆を置いた。
仕方ない…。
目が覚めた時に召し上がってくれればいい。
そう思って踵を返した時、後ろで扉が開く音がして、振り向くと潤坊ちゃんの部屋から出て来る翔坊ちゃんと目が合った。
「あっ…」
「和…也…、どうしたの?」
心做しか、翔坊ちゃんの瞼が赤く腫れてるように見える。
「あ、あの、朝食を召し上がったきり、何も召し上がってないと思って、その…握り飯を…」
一度は床に置いた盆を慌てて持ち上げると、それを坊ちゃんに向かって差し出した。
「ああ、そう言えば…。済まないね、和也。気を使わせてしまって。良かったら一緒に食べないかい?」
「あの、実はそのつもりで少し多めに握って貰ったんです」
使用人風情が、貴族の坊ちゃんと食事を一緒にするなんて…、本当なら許されないことなんだろうけど…
「ふふ、なんだそうだったのか」
沈みがちに見えた坊ちゃんの顔に、漸く笑顔が戻る。
「さ、折角だから頂こうか?」
「はい。あ、俺お茶いれますね」
すっかり冷めてしまったお茶を湯のみに注ぎ、長椅子に座った坊ちゃんの前に置くと、俺は床にぺたりと尻を着けた。
そして坊ちゃんが握り飯を手に取り、口に頬張るのを見届けてから、俺も握り飯を手に取った。
松岡さんの握り飯は、思いのほか大きくて…
二つ目を半分食べたところで、二人同時に大きくなった腹を摩った。
「松岡ったら、よっぽど俺を大食漢だと思ってるようだね」
腹が満たされたおかげか、暗く沈みがちだった坊ちゃんの顔に明るい色が差す。
良かった…、松岡さんのおかげだ。
俺は心の中でほっと胸を撫で下ろした。
「そう言えば…」
坊ちゃんが思い出したように、長椅子の背凭れに預けた背中を起こした。