愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
「済まなかったね、和也」
坊ちゃんが申し訳なさそうに俺に頭を下げる。
「えっ、ちょっ…、坊ちゃん…?おやめ下さい、ね、坊ちゃん…」
当然、何故坊ちゃんが俺なんかに頭を下げるのか、意味の分からない俺は、慌てて坊ちゃんの肩を掴むと、頭を上げるよう訴えた。
でも坊ちゃんは中々頭を上げてはくれなくて…
「まさかこんな事になるなんて…。本当なら、雅紀さんの所に行きたかっただろうに…、俺のために…」
「それは…」
「心配…じゃないのかい?過ぎたこととはいえ、智と雅紀さんは、その…なんて言うか…」
不安がない訳じゃない。
久方ぶりに見た智さんは、以前よりも妖艶さを増していたし、もし雅紀さんがあの壮絶なまでの色香に負けて…って、そんな事を考えていたら、苦しくて心臓が押し潰されそうになる。
でも俺は…
「雅紀さんを信じてますから…。俺は雅紀さんの事を、心から信じてますから…。それに坊ちゃんだってそうでしょう?智さんのこと、信じてるでしょ?それに俺が今お仕えしているのは、智さんではなく、坊ちゃんですから」
本当なら目出度い筈の宴の最中に、あんな形で親を亡くすなんて…その心中は如何ばかりか…
それを考えたら、俺だけがのうのうと雅紀さんの懐に甘えているわけにはいかない。
それに坊ちゃんだって、今まで壁を隔てた向こうに感じていた筈の智さんがいないことを、きっと寂しく思われている筈。
俺が慰めて差し上げなくては…
「あ、そう言えば…、さっき潤坊ちゃんのお部屋にいらしたようですけど、何を…?」
俺が立ち入ることじゃない…
それは分かっていたけど、お二人が何を話していたのか、どうしても聞かずにはいられなかった。