愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
翔side
兄さんの言葉は哀しいほど淡々としてて、いつもの強さも威厳も感じられなかった。
これが本当の兄さん…?
幼い頃からおれを護り続けてくれていた大きな存在が、何処にでもいる普通の男の人と同じに見えた。
「そんなこと…そんな悲しいこと、言わないで…」
愛し方も愛され方も解らないなんて、悲しすぎる。
「仕方ないだろ…」
諦めたように呟いた兄さんは、少し笑って
「まさか、おまえとこんな話をする日が来るとは思ってもいなかったよ」
袖にしがみ付いてたおれの肩をぽんと叩いた。
「兄さん…」
おれは、話は終わりだと言わんばかりの仕草に、それ以上何も言えなくなる。
仕方なく袖から手を離し、重苦しい気持ちのまま立ち上がろうとすると、兄さんは硝子の底に少し残った琥珀色の液体を揺らし口に含み、
「ああ、そういえば智の姿が見えないが…大方、世話好きな雅紀が連れ帰ったんだろうな…」
ふと思い出したように呟く。
「連れ、戻すの…?」
また兄さんが智を部屋に閉じ込めようとするのかもしれないって、不安が湧き上がる。
だけど、おれの問いに首を横に振ると、
「…いや、もう好きにすればいいさ」
予想外にもあっさりと、智を手放すんだって…
「もう…自由にしてあげるってこと…?」
恐る恐る訊ねるおれに緩く視線を絡ませた兄さんは、
「あいつを縛り付けておく意味が解らなくなっただけだ」
と…虚ろな言葉を放つと、長椅子に凭れ目を閉じた。
その全てを拒むような雰囲気に、掛ける言葉が見つけられず
「ごめんなさい…疲れてるのに、押し掛けたりして…。おやすみなさい」
型通りの挨拶だけ口にすると、静かに部屋を出た。
おれはどうしたらいいんだろう…
兄さんはまるで人が変わったみたいになってしまった。
それがいいことなのか、悪いことなのか…
今のおれには解らなかった。