愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
俺には到底理解できない感情の為に、智が恥辱に塗れることを選んでいたことに驚きを隠しきれなかった。
俺はそんな男を、弄んでいた…
澤はそのことにも耐えられなかったんだと、今だから思える。
誰にも話すことはないと思っていた俺の話を言葉少なに聞いていた翔は、唇を噛み、何処と無く悲しそうに見えた。
「兄さんは…智のこと、好きな訳じゃなかったんだ…」
そんな弟から、唐突に意味の解らないことを問われ
「好き…?」
想像もしなかった感情の種類を探し当てることができなくて。
「悪いが、俺はそんな感情は持ち合わせちゃいない」
そう答えるより他なかった。
すると翔は戸惑ったような表情になり
「じゃあ…どうしておれには優しくしてくれるの…?おれは優しい兄さんのこと、好きだよ…」
持ち合わせてないその感情の理由を、尚も問い続ける。
「優しくしたつもりは無いが…翔は、俺の…護りたい者ってだけだ」
「それが…好きってことじゃないの…?」
「…俺には…その感情は解らない」
俺は翔のことを好きだなんて思ったことはない。
ただ歳の離れた幼い弟に、自分と同じ寂しさを与えたくないと。
穢らわしい男から無垢な者を護るのは自分しかいないという使命感はあったように思う。
だけど翔が思ってるような感情とは違うような気がするのに、
「そんなことない…!兄さんが気がついてないだけだよ!」
心優しい弟は、どこまでも俺の本質は違うんだと言って、受け入れようとはしなかった。
「翔…、愛されたことの無い人間は…それを人に与えることはできないらしい。母上はご自分のことで精一杯だったし、あの男は見ての通り、俺なんかに興味すら示さなかったからな。俺は愛し方も愛され方も解らない、そんな人間なんだ」
これが本当の俺…