愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
「どうして?僕は貴方に酷いことをしたのに、感謝なんて‥」
恨まれることはあっても、感謝されるようなこと、僕は何一つしていない。
なのにどうして‥
「酷いこと‥か‥。確かに君に愛想をつかされたと思った時は、それは胸が締め付けられる程に苦しかったし、情けないことだが男泣きだってした。でもね智。人を愛することがどれだけ尊いことか‥、そして素晴らしいことか‥、それを教えてくれたのは、他でもない、智‥君なんだよ」
「そん‥な‥、僕は何も‥」
首を振る僕の手を、静かに伸びてきた雅紀さんの手がきゅっと握る。
「それに君は私に沢山の想い出をくれた。それだけでも充分感謝に値するとは思わないかい?」
それは僕も同じだ。
この部屋で過ごした時間も、初めて一緒に食べた団子の味も、今となっては全てが良い想い出として僕の胸に残っていて、それはこの先もずっと消えることはないだろう。
「さあ、今日は色々あって疲れたろう。こうして手を握っていて上げるから、もう眠りなさい」
僕が寂しくないように‥
僕が不安にならないように‥
きっと雅紀さんの精一杯の優しさなんだと思う。
「はい。‥おやすみなさい‥」
僕は雅紀さんの手の温もりを感じながら、瞼を閉じた。
小鳥の囀りに、深い眠りから呼び起こされた僕は、久し振りに感じる清々しさに一つ伸びをした。
「漸くお目覚めかい?」
「あ‥、おはよう‥ございます‥」
僕が目を覚ますのを待っていてくれたのか‥、雅紀さんが障子窓の外に向けていた視線を僕に向けた。
「良く眠れたようだね?」
「‥はい、とても‥」
本当にその通りだった。
この数ヶ月‥いや、もっと前からだろうか、こんなにもゆっくりと眠ったことはなかったかもしれない。
こんなにも朝の空気が心地良い物だなんて‥
僕は布団を抜け出て、窓辺に這い寄ると、青く澄み渡った空を見上げた。
翔君‥
君も同じ空を見ているだろうか‥
愛しい人に思いを馳せながら‥