愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
二つ並んだ布団に、二人して寝転ぶ。
以前は‥、まだ僕がこの離れで暮らしている時は、雅紀さんが母屋で眠る時以外、こんな風に別々の布団で寝たことなんてなかったのに‥
そう思ったらなんだか急に寂しさが込み上げてきて‥
僕は寝返りをうつ振りをして、雅紀さんに背を向けた。
「眠れないのかい?」
眠っているとばかり思っていたのに、丸めた背中に突然声をかけられて、僕は身体をびくりと震わせた。
「きっと翔君も眠れない夜を過ごしていることだろうね‥」
「翔君‥も‥?」
「愛する者と離れて過ごすと言うことは、時に酷く寂しさが募るものなんだよ」
愛する者‥
言われて初めて、この胸に募る虚無感にも似た寂しさが、人を愛するが故だと言うことに気付いた。
愛する人が傍にいない‥
たったそれだけのことが、どんなに苦しく、辛いことなのか‥
でもそれは僕だけじゃない。
雅紀さんもきっと‥
「雅紀さんも‥和也と離れていて寂しいのですか?」
「うーん、そうだな‥。寂しくない、と言えば嘘だろになるだろうね?確かに、和也が傍にいてくれたら、どんなにか幸せだろうと思わなくもない…」
僕のせいだ。
僕の我儘で、雅紀さんに頼ってしまったから、だから‥
もし僕があのまま松本の屋敷にいれば‥、もしかしたら今頃雅紀さんは和也と‥
「ごめんなさい、雅紀さんにまで辛い想いをさせてしまって‥」
心からそう思った。
「僕はやはりここに来るべきじゃなかった‥」
「それは違うよ、智。誰のせいでもない、和也自身が自ら残ることを選んだのだ。心に深い傷を負った翔君を案じてね。あの子は心根の優しい子だから‥」
それは僕が‥、僕自身が一番良く分かっている。
両親を亡くし、命からがら逃げ出した僕に、小さな和也は片時も離れることなく寄り添ってくれた。
見つかったら叱られると知りながら、他所の畑に野菜を盗みに入っては、お腹を空かせた僕に与えてくれた。
自分だってお腹が空いていただろうに‥
だから今度も僕のために‥
「和也に感謝しないといけませんね‥」
「そうだね。でも私は智、君にも感謝しているんだよ?」
「えっ‥、ぼ‥く‥?」
雅紀さんの思いがけない言葉に、僕は大きく寝返りを打つと、見開いたままの視線を雅紀さんに向けた。