• テキストサイズ

愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第13章 雲外蒼天


「その君が見たという…あの男とは、誰のことかね?」

膝の上で拳を震わせている智の様子に信憑性を感じたのか、父は息を整えるように、ゆっくりと問い掛ける。

「松本の…御父上です」

智は震える声で、どうにか言葉を紡ぐ。


「…どういうことだ?」


私は表情を厳しくした父上に、澤の口から語られた話をかい摘んで話をした。

そして智は、自分で仇を討とうと松本の元へと身を寄せたと、正直に話した。



「なんということだ…」

全てを聞き終えた父は、天を仰ぎ、大きく息を吐いた。


淡い初恋の想いをも打ち砕いてしまった悲劇に、言葉も失くしてしまったかのようだった。



「独りになった智が双親の仇を討とうと考えたとしても、仕方がなかったと思うのです」

「旦那様…、申し訳ございませんでした…!旦那様のお気持ちも露知らず、僕は…なんて愚かなことを…」

「父上、私からもお詫び致します。これまでの智の振舞いを許してやっては頂けませんか」

私たちはそれぞれの思いを胸に、目の前で驚きと悲しみを深めた父に、頭を下げた。


智の母上に対する父の想いがなければ、私たちのしてきた我が儘は、到底許されるものではないと承知できた。


だからこそ…きちんと許しを請わなければ、私も智も前には進めないと感じた。



長い沈黙の後、

「二人共、顔を上げなさい」

全てを得心したような声にゆっくりと顔を上げると、そこには涙を堪え、慈悲深い眼差しで見つめてくれる寛大な父の姿があった。


「辛かったろうに…」


その言葉に、堰を切ったように涙を流す智の肩を抱き、

「ありがとうございます…父上」

私は長い…長い呪縛から解き放たれたように感じた。
/ 534ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp