愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
「その君が見たという…あの男とは、誰のことかね?」
膝の上で拳を震わせている智の様子に信憑性を感じたのか、父は息を整えるように、ゆっくりと問い掛ける。
「松本の…御父上です」
智は震える声で、どうにか言葉を紡ぐ。
「…どういうことだ?」
私は表情を厳しくした父上に、澤の口から語られた話をかい摘んで話をした。
そして智は、自分で仇を討とうと松本の元へと身を寄せたと、正直に話した。
「なんということだ…」
全てを聞き終えた父は、天を仰ぎ、大きく息を吐いた。
淡い初恋の想いをも打ち砕いてしまった悲劇に、言葉も失くしてしまったかのようだった。
「独りになった智が双親の仇を討とうと考えたとしても、仕方がなかったと思うのです」
「旦那様…、申し訳ございませんでした…!旦那様のお気持ちも露知らず、僕は…なんて愚かなことを…」
「父上、私からもお詫び致します。これまでの智の振舞いを許してやっては頂けませんか」
私たちはそれぞれの思いを胸に、目の前で驚きと悲しみを深めた父に、頭を下げた。
智の母上に対する父の想いがなければ、私たちのしてきた我が儘は、到底許されるものではないと承知できた。
だからこそ…きちんと許しを請わなければ、私も智も前には進めないと感じた。
長い沈黙の後、
「二人共、顔を上げなさい」
全てを得心したような声にゆっくりと顔を上げると、そこには涙を堪え、慈悲深い眼差しで見つめてくれる寛大な父の姿があった。
「辛かったろうに…」
その言葉に、堰を切ったように涙を流す智の肩を抱き、
「ありがとうございます…父上」
私は長い…長い呪縛から解き放たれたように感じた。