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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第13章 雲外蒼天


「そんなことは…」

父上の言葉に智も驚いた様子で、しどろもどろになってしまい、戸惑ったような顔で私の方を見た。


父上の憧れていた女性…

血は争えないということか


私は、自分が智に抱いた想いと同じものを、若かりし頃の父が同じ血を持つ女性に抱いていたことに驚きを隠しきれなかった。



「智…、君の御母上はそれほどまでに美しい人だった。私も松本も…叶わぬ恋を共に追い続けていたのだよ」

「知りません…でした。母様がそんな風に想いを寄せてもらえるような…そんな人だったなんて…」

在りし日の母の面影を思い浮かべているのか、智は声を詰まらせていた。

「仕方あるまい。まだ君は幼かったからね」

父上は、そんな智を懐かしい人を見るように、優しく見守って。

それぞれが失ってしまった過去に想いを馳せていた。



そんな中ではあったけれど、私はまだ父に話せていないことを打ち明けなければならないことに、胸が痛んだ。

それほどまでに親しかった間柄で起きてしまった悲劇は、きっと父にとって辛いものとなるだろう。


でも過去は消せない…


「まだ父上に話してなかったことがあるのですが…」

私は腹を括り、穏やかな表情を浮かべる父に徐に話を切り出した。

すると智に向いていた視線が私を捉え、僅かに表情が厳しいものとなる。


「なんだ…?」

訝しげに問われ口を開こうとすると、私が答えるよりも先に

「僕はあの日…父様と母様が、あの男に殺されるのを…見てしまったんです…」

智は意を決したように、自分の見たままを語った。


「殺された…?君はそれを見たのかね?」

「はい…母様が、僕に柱時計の中に隠れてるようにって仰って…」

「まさか、そんな…。では噂は本当だったのか…」

「父様も母様も…流行り病で亡くなった訳じゃないんです…!あの男が…殺した…」

愕然とする父に、智は懸命に訴えるように話していた。
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