愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
雅紀side
全てが繋がった気がした。
桜並木の下で智を見つけて連れ帰った時、私がこの子を手元に置くことを許してくれたのは、身元が確かだと解っていたからだったのか。
「だからあの時、もし智が出ていくと言ったら引き留めてはいけないと…?」
「そうだ。身分こそ失っても、伯爵の血筋の子なら、引き取りたいと思った人間はいた筈だからね」
その言葉に私と智は顔を見合わせた。
伯爵家の血筋
それは大金を積んでも、手に入れられるものではない。
「でも何故…父上はあの時、本当のことを教えては下さらなかったのですか?」
もし智が伯爵家の血を引く者だと解っていたなら、養子に出すなり方法はいくらでもできただろうに。
「…言える筈もなかろう。当時、雅紀はまだ学籍にあった身…。表向きには大野伯爵夫妻は流行り病で亡くなったとなっていたが、私たちの間では何者かに暗殺されたという噂がまことしやかに流れていた。人の口に戸は立てられない…ということだろう」
「では智の身を守る為に…私にもその身分を隠しておられたと?」
私が迂闊に智のことを話せば、その身に危険が及ぶと考えてのことだったと、大人になった今だから理解できた。
きっと当時の私なら、妙な正義感を持ちかねないと思ったに違いない。
さすが…父上だ…
その思慮の深さに頭が下がる思いだった。
けれど、父上は少し表情を緩めて
「それもあるが…」
そう優しげな目を智へ向けると
「君の御母上は、私にとっては初恋とも言えるほど、幼い頃から憧れていた女性だったから…。そんな人の忘れ形見なら、巡り会ったことを運命だと感じた…そう言ったら笑われてしまうかな?」
私の度肝を抜いてしまうようなことを語り、見せたこともないような微笑みを浮かべてみせた。