愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
途中で買った団子を携え、雅紀さんの邸に帰った僕達を、血相を変えた雅紀さんのお母様が出迎えた。
「災難だったわね。さ、早く中へ‥。お父様がお待ちよ」
もう噂を聞き付けたんだ‥
だとしたら、僕のような厄介者はここにいちゃいけない‥
雅紀さんのご家族に迷惑をかけるわけにはいかない。
雅紀さんの背中に隠れるようにしていた僕は、手に持った団子の包みをぎゅっと握り締めた。
すると雅紀さんが僕の手を掴み、
「そんなに強く持ったら、折角の団子が潰れてしまうよ?」
案ずることは無い、とばかりに目を細めた。
「まあ、貴方は確か‥」
漸く僕の存在に気付いたのか、雅紀さんと良く似た明るい笑顔が僕を覗き込んだ。
「あ、あの‥、僕‥」
どうしよう‥、上手く言葉が出ない。
「こんな所に何時までもいたら風邪を引いてしまうわ。さ、中に入りましょう」
俯いてしまった僕の肩に、やっぱり雅紀さんと良く似た暖かな手が乗せられる。
「あ、あのっ‥、これ‥、途中の団子屋で買って、その‥」
僕は雅紀さんのお母様に向かって、団子の包みを差し出した。
受け取ってくれなかったらどうしよう‥、と思いながら‥
「まあ、私に?嬉しいわ。早速お茶でもいれましょうね」
「で、でも僕‥」
言いかけた僕を、雅紀さんが小さく首を振って制する。
結局僕は雅紀さんに手を引かれ、雅紀さんのお母様に背中を押されるまま、懐かしさすら感じる邸の中へと足を踏み入れた。
「お父様は奥のお座敷でお待ちよ。貴方も‥智、だったかしら?一緒に‥」
名前‥、覚えててくれたんだ‥
そんな小さなことが、今は幸せに感じる。
「行こうか?あまり待たせると、父上の頭から角が生えかねないからね」
雅紀さんが顔を険しくして、頭の上に指を二本立てる。
「えっ、角が‥?」
「くくく、冗談だよ。でもきっと案じておられるだろうから、一刻も早く顔を見せて差し上げた方が良いかもしれないね」
な、なんだ‥、冗談か‥。
でも以前の雅紀さんなら、こんな冗談なんて言わなかった。
和也のおかげ‥なのかな‥