愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第3章 兎死狗烹
雅紀さんの屋敷の庭の、凡そ倍はあるかと思われる広大な庭には、一面の青芝が敷き詰められていて‥
その永遠に続くかと思われる青芝を見ていると、この世界に僕一人が取り残されてしまったようで‥不安になる。
「広い庭ですね‥迷ってしまいそうで、こわい‥」
徐々に詰めた距離を一気に縮め、後ろ手で組んだ腕に自分のそれを絡ませる。
すると僕を安心させようと思ったのか、男はその彫刻のような顔に笑みを浮かべて、
「大丈夫だよ‥ほら、あそこで少し休もう」
と、そのすぐ先を指差した。
そこはすっかり葉を落とした木々に囲まれた、一見すると東屋のようになっていて、そこには青銅色をした椅子が置かれていた。
その時、背後で草を踏む音がして、僕が咄嗟に振り返ると、そこには血のように赤い液体が入った硝子瓶を持った使用人が立っていて‥
「‥‥あれは何です?僕‥見たこと‥ない‥」
「あれは葡萄で作った飲み物さ。‥寒いだろう?あれを飲めば少しは温まる」
そう言って、僕の前に赤い液体が注がれた硝子の器が差し出された。
まさか毒なんて‥‥
そう思うと、目の前のそれを手にすることすら躊躇われる。
すると僕の不安を察したのか、もう一つ用意された器を手にした男が、その赤い液体を口に含んだ。
そして少しの間口の中で転がす様に味わうと、それを喉を鳴らして飲み干した。
「いい香りだ‥飲んでみるといい」
信用したわけじゃない。
でも‥‥
僕は硝子の器を手に取ると、それを両手に持って口に運んだ。
赤い液体を一口、恐る恐る口に含む。
すると口の中に、葡萄の豊潤で豊かな香りが広がって‥
「本当に‥葡萄の香りがする‥」
とても甘くて、でもほんの少し渋みのあるその液体を、僕は一気に飲み干した。
「気に入ってくれたようだね?もう一杯どうだい?」
僕は薦められるまま、硝子の器を差し出し、そこに注がれる赤い液体を、乾いた喉に流し込んだ。
そして何杯目かの赤い液体を飲み干した時、僕の身体が、まるで火がついたかのように熱くなるのを感じた。