愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第3章 兎死狗烹
智said
和也に導かれるように、遠ざかる大きな背中・・
僕を愛したりしなければ、貴方は苦しまずに済んだかもしれないのに・・
貴方は僕にとって、ほんの足掛かりでしかなかったのに・・
それなのに僕を愛してくれて、ありがとう・・
貴方に愛されて、僕は幸せだったよ・・
「心配じゃないのかい?」
不意に言われて、遠ざかる背中に向けた視線を、隣に立つ酷く気取った男に向ける。
唇の端を少しだけ上げて、長い睫毛を瞬(しばた)かせる。
心配?
僕が雅紀さんを?
馬鹿なことを・・・・
心配なんてしちゃいないさ・・
だってあの人は、漸く僕と言う檻から解放されたのだから・・
そう、檻に囲われていたのは僕じゃない・・、あの人自身だったんだ。
そして次に檻に囲われるのは、貴方だ。
僕は、雅紀さんとは違う・・、別の男に背を抱かれながら、仕立てのいい背広の端を摘み、幼子のように振舞って見せる。
僕に擦り寄って来る男なんて皆同じだ・・
ほんの少し庇護欲を刺激してやればいい。
それだけで男は皆、翼を漆黒の闇色に染めた僕の虜になる。
「これが済んだら・・庭に散歩に出よう。・・・・ここよりは退屈しない」
この男も同じ。
幼子のように小首を傾げ、赤く熟れた果実のような唇で囁いてやればいい。
それだけでいい・・
招待客への挨拶を済ませ、使用人に何やら耳打ちをすると、颯爽とした足取りで僕の元へと歩み寄ってくる。
その姿を、僕は壁際に佇み、ずっと見ていた。
「さあ・・これでお役御免だ。これでゆっくり君のお相手ができるよ。・・雅紀の大切な人だからね。丁重におもてなしさせていただくよ」
嬉しい・・
声には出さず、 僅かに濡れた瞳と、熟れた果実の唇の端を上げて伝える。
いつから僕はこんな遊女のような仕草を身に付けたのか・・
こんな自分自身に吐き気すら感じながらも、僕は誘われるまま男の後に着いて、開け放った窓から広い庭に降りた。