愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第3章 兎死狗烹
潤side
使用人が雅紀を休ませる為に案内していくのを静かな微笑みだけで見送るとは‥。
散々可愛がられていた筈なのに‥。
「心配じゃないのかい?」
その後ろ姿を見つめる横顔に問いかけてみる。
けれど
「そうですね‥でも僕のそばには貴方がいて下さるんでしょう?雅紀さんは‥少し休めばまた‥‥ね。」
と口もとに僅かな笑みを浮かべながら、甘えたような眼差しを寄越した。
‥‥そういうことか‥。
ますます面白いじゃないか‥。
「ああ‥そうだな。君をひとりにはできないしね‥でも、ずっとここに居ても退屈だろう。」
手触りの良い藍天鵞絨(あいびろうど)の背中に手を添え、客人の間を会釈しながら縫うように歩く。
俺の傍に添うように歩く彼は、自分が俺の手持ち花になっていることを十分にわかっている。
すれ違う客人には曖昧に視線を流し、俺を見上げる眼差しには庇護欲を唆るような甘えを含ませて‥。
「‥退屈だなんて‥こんなに素晴らしい方々がいらしてるのに‥。僕には眩し過ぎるくらい‥」
背広の端を小さく摘む仕草は、まるで幼子のようで。
いくつもの顔を見せる。
雅紀も‥この男のそんなところに惹かれたんだろうか。
それとも他に‥情人となり得るものを‥
‥‥持っているのか?
俺は広間の奥に設えられた挨拶の場までいくと、彼の耳もとでこう囁く。
「これが済んだら‥庭に散歩に出よう。‥‥ここよりは退屈しない。」
‥‥俺に‥
面白いものを‥みせてくれるんだろう?
すると彼は僅かに顔を傾けて赤い唇を解くと、そうですね‥と囁き返した。
挨拶をするために進み出る俺は、心に透明な糸の端をつけられたような感覚を覚えながら、静かに離れていく背中を見送る。
男を惹きつけずにはおかない術を、息をするように自然にしてしまう。
久しぶりに心が震えるような妖しい衝動が、俺の身体を駆け抜ける。
ああ‥堪らないな‥
ゾクゾクするよ‥‥
雅紀‥俺は自分の欲望には忠実な男なのだよ。
お前の連れてきたこの男は、俺の欲望を満たしてくれそうじゃないか。
嬉しいよ‥お前はいい友だったな‥