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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第3章 兎死狗烹


ぽつぽつと・・、一つ一つの言葉を噛み締めるように、男の口が言葉を紡ぎ始める。


そのどれもが、あの人・・智さんへの深い愛と、我が身の愚かさを悔やむ物ばかりで・・


俺はそれを、膝の上で握った拳に視線を落としたまま、ただ黙って耳を傾けていた。


きっと誰でも良かったんだ・・
別に俺じゃなくても・・

苦しい胸の内を曝け出せるのなら、誰でも・・・・


不意に男の言葉尻が途切れ、俺はそれまでずっと落としたままだった視線を、ふと上げた。


泣いて・・る・・?


「・・先ほどご一緒されてた・・あの方のことですか・・?」


智さんを思って・・?


「ああ・・その通りだ。・・・・愛しているんだ・・心の底から愛して・・・・」


それ程までに智さんのことを・・・・?


だったら何故!


あの時・・、街で偶然見かけたこの人は、智さんの隣であんなにも堂々と振舞っていたのに・・

そんな人が今、素性さえも分からない使用人の前で、零れる涙を隠そうともせずに咽び泣いている。


その姿がとても小さく見えて・・・・


「そんなに・・あの方のことを・・・・大切にされてたんですね」


そう言ったきり、俺はかける言葉を見失った。




暫くの沈黙が続き、漸く男の涙が止まりかけた頃、階下から聞こえてきた拍手の音に、


「・・・・すまなかったね・・こんな話を聞かせてしまって。もう・・戻りなさい」


如何にも場都が悪そうに笑うと、涙に濡れた目尻を指で拭おうとした。


俺は咄嗟に懐に入れてあったハンカチを取り出すと、男の前に差し出した。


「あの・・どうぞ・・・・」

「貸して・・くれるのかい?私に・・」


驚いたように身開かれた目が、次第に細められて行く。


そして俺の手からハンカチを受け取ると、そっと目尻に溜まった水滴を拭い取った。


「ありがとう。・・すまなかったね、初対面の君に情けない姿を見せてしまって・・」

「いえ、私は別に・・。あの、そろそろ行きますね。ごゆっくりお休み下さい」


俺は深々と頭を下げると、小走りで部屋を出た。



何故だろう・・
胸が焼けるように熱くて・・痛いよ・・
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