愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
翔side
おれの大切な人の顎を取り、何事か話していた父様は雅紀さんに声を掛けられ、智に背を向けた。
雅紀さんが傍にいる今なら声を掛けられる…
おれが大股でその場に近づくと、先に気がついた兄さんが智の肩を抱いている手に力を込めたのがわかった。
智から手を離せ…
喉元まで出かけた言葉を呑み込んで
数日ぶりに見る智を抱き締めたい気持ちを抑え込んで
「父上、兄さん!今日は私のために盛大な祝いの場を用意していただき、ありがとうございます」
何とか智の胸の中に渦巻く憎しみを和らげようと声を掛けた。
一刻も早く父様を智から遠ざけてあげなくちゃ…
親の仇を目の前にして、憎しみに染まっていく智があまりにも苦しくて。
胸が張り裂けそうだった。
そんな事は何も知らない父様は、
「翔か…、今日はずいぶんと大人びて見えるが…。その背広の誂えも悪くない」
「ありがとうございます、父様」
おれが普段の父様にしては賛辞とも言える言葉に微笑みを返すと、その後ろにいた雅紀さんはほっとした表情になった。
「兄さんも…、おれの為に時間を取って下さって、ありがとうございます」
「いや…、こんな祝宴の場も今年で最後だからな。存分に愉しませてもらうさ」
「そうですね、こんな風に祝ってもらえて…感謝しています」
本当は…
心の底から…そう言いたかった
おれのことを可愛がってくれた兄さん…
時に父のようにおれを叱り
父様の冷酷さから守り温めてくれた兄
共に過ごしてきた温かな思い出が胸を苦しくさせた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう…
噛み合わない歯車が軋みを上げているような…
そんな感覚を覚えた。