愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
雅紀side
急いで大広間へ戻ると、有ろう事か…
松本の父上が智の顎を取り、侮蔑の眼差しを向けているのが目に飛び込んできた。
なんということを…
親の仇に品定めをされるような扱いを受けるなどという屈辱を与えられている姿を見るに耐えられず、その背中に声を掛けた。
すると己が罪を知らない彼は振り返り…
「おお…、君は確か…」
「相葉雅紀です。ご無沙汰致しております。」
「そうだったな。相葉の…、お父上は健勝であられますかな?」
「はい、相変わらずでございます。また二人で酒を酌み交わしたいと申しておりました」
私と松本が幼い頃からの友であったのは、父親同士が同窓の誼だということもあった。
「そうか。ではまた近いうちにでも席を設けるとしよう」
松本の父は社交辞令とも取れるような抑揚の無い声でそう言うと、また2人の方へと向き直った。
釣られて見れば…
智は優しげな瞳の中に憎悪の焔を湛え、小さな身体を震わせている。
そしてその手が背広の衣嚢の中に在り、何かを掴んでいるようにも見えて。
まさか…
この場で仇を討とうなどと…
もしそんなことをすれば、智は二度と私たちの手の届かない檻に閉じ込められてしまう。
そんな無益なことをしては駄目だ…
美しい手を
血で染めるようなことをしてはいけない…
何としてでも、その手を抑えなければと足を踏み出そうとすると
「父上、兄さん!今日は私のために盛大な祝いの場を用意していただき、ありがとうございます」
私たちのなかに割って入る声がした。
翔君も見ていたのか…
これで智も何とか踏み止まってくれればいいのだか…
想いを通わせた人の親を目の前で手に掛けるようなことはあるまいと、少し胸を撫で下ろした。